日本の出生時の国籍要件はシンプルだ。「両親、もしくは父母のいずれかが日本人」、それだけだ。
通常「無戸籍者」と言われるのは親が日本人であることがはっきりしているケースである。
その約7割が民法の規定である離婚後300日規定によって推定される父と事実上の父が違う場合だ。その際、分娩した母は日本人であることが明らかである。
つまり子は明らかに日本人であるが、出生届が出されていないだけというケースだ。
一方で「無国籍」とは両親が不明で、その国籍が確認できないケースを差す。
無戸籍者のうちの残り3割のうちには相当数、この「無国籍」がいると推定される。
客観的状況から「親は日本人だろう」と思っても、証拠がなければそれは認定されない。雅樹はまさにこの事例である。
ただ、いわゆる「血統主義」をとっている日本で、唯一ともいえる例外は遺棄児、いわゆる「捨て子」のケースである。これは発見された場所の首長が氏名をつけて棄児発見調書とともに届出を出す。
その際は両親が日本人であると確定しなくとも、日本人として登録される。
原則を逸脱して「出生地主義」をとっているとも言えるのだが、これは「無国籍者を出さない」という「人道的観点」から規定が設けられている。
ただし、同じ「遺棄児」でも就学年齢に達した後、例えば10歳で親が行方不明となり保護、出生届も出されていないことが判明したというケースは「人道的観点」から外れる。
そして家庭裁判所に「就籍」という煩雑な申立てをして認められなければならないのだ。
就籍とは「日本人であること=日本国籍」を証明する行程である。
無国籍・無国籍の人がどうやって裁判所から日本国籍を確認されるのか、そしてそれがいかに困難かを雅樹の事例で説明しよう。