この数年、AIという言葉をいたるところで見るようになった。新聞、テレビ、雑誌、街頭広告でも「AI使用」などという文字をよく目にする。
AIとは、Artificial Intelligence、つまり人工知能の略語であって、『人工知能と経済の未来』の著者である井上智洋氏(駒澤大学講師)は「人工知能とは、人間のような知的な作業をするソフトウェアのことで、コンピュータ上で作動する」と説明している。
この説明で人工知能というものが理解できるわけではないが、AIが人間の能力を凌駕するような出来事が、1990年代の後半からいろいろ報じられている。
1997年には、コンピュータがチェスのチャンピオンを打ち破った。勝ったのはIBM社のスーパーコンピュータ「ディープ・ブルー」で、負けたのは史上最強のチェスプレイヤーといわれたロシア人のガルリ・カスパロフであった。
また、2011年には、同じくIBM社が開発したコンピュータ・システム「ワトソン」が、アメリカのクイズ番組でクイズのチャンピオンに勝利して大きな話題になった。
さらに、2015年には、多くのAI研究者や将棋関係者たちが、コンピュータが将棋の羽生善治名人(当時)と勝負するものと目していた。実際には対戦はされなかったのだが、情報処理学会は2015年10月11日に、コンピュータ側が「統計的に勝ち越す可能性が高い」と発表、いわば不戦勝を宣言したということだ。
ところで、囲碁は、将棋に比べてはるかに複雑なゲームとみなされていて、コンピュータが囲碁で人間のチャンピオンに勝つのは2020年代の後半になるだろう、と関係者の間で目されていた。
ところが、なんと2016年3月に、囲碁AIの「アルファ碁」が、世界最強の棋士である韓国のイ・セドル九段を打ち負かした。このことで、AIの進歩のスピードが関係者たちの予想よりもはるかに早いことが実証されたかたちになり、世界に大きな衝撃をもたらした。
だが、AIが威力を示しているのは、将棋や囲碁の世界だけではない。
たとえばアイロボット社のロボット「ルンバ」は、人間が指示したように掃除ができるし、ソフトバンクは会話ロボット「ペッパー」を発売している。
また、コーヒーのカップよりもやや大きな円筒形の「グーグル・ホーム」は、尋ねれば、本人の今日の予定から、株価、ニュース、スポーツ情報まで答える。さらには辞書がわりにもなるし、近い将来には新幹線や飛行機の予約までしてくれることになりそうだ。
だが、AIは、もっとすさまじく社会を変えようとしている。