26歳の右翼活動家は、なぜ保守系出版社を襲撃したのか

右翼と愛国 若手民族派の思考回路
安田 浩一 プロフィール

不敬か、言論封殺か

月刊誌『WiLL』は、松田が事件を起こす直近の号で、「いま再び皇太子さまに諫言申し上げます」なるタイトルの記事を掲載していた。

保守論客として知られる二人の学者の対談で、皇太子や雅子妃を批判しながら、皇室を憂える内容となっていた。

 

<皇室という空間で生活し、儀式を守ることに喜びを見出さなければならないのに、小和田家がそれをぶち壊した>

<夢幻空間の宇宙人みたいになっています>

対談では、学者らの口からこうした皇室批判が何度か飛び出している。

松田はこれに憤りを感じ、版元である「ワック」への襲撃を決行したのであった。

「ワック」は事件後ただちに「問題提起を言論でなく、暴力で封じようとする行為は容認できない」とのコメントを発表した。

まったくその通りである。たしかに、この事件は暴力による言論封殺だ。

右翼はこれまでにも様々な媒体が報じてきた皇室批判や論評に対し、暴力で対応してきた。どんなことがあっても許容できるものではない。

一方、この対談記事に対しては、私も強い反発を覚えた。

記事の行間から漂ってくるのは、ひとりの女性の精神面での不調をあげつらい、あざ笑う、なんとも軽薄な空気だ。

松田は襲撃の理由を「不敬」だとしたが、私がこの記事から感じたのは、心身に障がいを抱えた人々に対する差別的な視点だ。先入観で歪んだ偏見に辟易した。

欺瞞とは徹底的に闘う

山梨県内のファミリーレストランでアイスコーヒーをすすりながら、私は松田に訊ねた。

――私自身は皇室に対して強い"崇敬の念"を持っているわけでもなく、そもそも右翼に対しても好意的でないことは、あなたも十分に理解していると思う。

と、なれば私も十分に「天誅」の対象ではないのか──?

「それはそれで、別にいいんじゃないでしょうか。ふうん、そうなんだ、という程度にしか感じません」

こちらが拍子抜けするくらいに、松田は淡々とした口調で応じた。

反発するわけでもなく、それどころか、私のグラスが空になったことを確認すると、「アイスコーヒーのお代わり持ってきますよ」と言って立ち上がる。

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終始、気遣いを見せた。生真面目な性格なのだろう。

「許せないのは、日ごろから『天皇陛下万歳』と言いながら、その一方で皇族の方々の人格を貶めるような物言いをしている人々です。反論の機会を持たないご皇室への棄損ですよ」

相手が右派・保守派を名乗っていたからこそ、『WiLL』の記事には欺瞞を感じたのだという。

松田は保守系のニュースサイトに対し、損害賠償請求を求める民事裁判を起こしたこともある。

襲撃事件を起こした松田を、ある保守系サイトが部落差別を助長させる言葉で罵倒したからだ。

「旧悪でしかない身分制度を持ち出して他者を攻撃するなど、許しがたい人権感覚じゃないですか」

"臣民"を自認し、唯一絶対の天皇信仰を抱えながら、「人権」を求めて裁判を闘う。

少なくとも松田のなかで矛盾はないという。彼なりの"万民平等"の思想である。

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