米中貿易戦争激化で、ついに習近平に「激烈批判」が続出

「政変」は起きるのか
津上 俊哉 プロフィール

「政変」は起きるのか

冒頭で紹介した香港報道(「江沢民、朱鎔基ら党の長老が連名で習近平の独裁傾向を批判し、政治局拡大会議の開催を求める意見書を提出した、王滬寧は既に解任された」等の噂)はどのくらいの信憑性があるのか。

日本の中国報道は「極端から極端へ振れる」悪い癖があるので、この香港情報のせいで、今度は「3期続投確定」とは真逆に、「習近平が権力を失った」「後任は胡春華だ」等々の報道が氾濫しやしないか、と心配だが、結論から言えば、この報道は針小棒大なガセネタだと思う。

いまは平時ではなく、米国との貿易戦争の最中だ。習近平の執政にどれだけ不満であろうと、トランプという敵を前に、指導者層が仲間割れを起こすことがどれほど愚かしいことか、元老たちは百も承知のはずだからだ。

むしろ「元老に建議書提出の動きあり」などという風説を耳にしたら、「それは米国の特務が中国を攪乱するために流した謀略情報ではないか」と疑うのが中国政治家の反応というものだろう。

経済の先行きに不安が広がっている……それでは習近平はトランプの要求に屈して妥協するのか? 

筆者は、習近平も「大人の妥協で事が収まるのなら、是非そうしたい」と考えているだろうと思うが、問題はそんな「大人の妥協」が可能か、一度譲歩したらトランプはまた蒸し返すのではないか?だ。中国の指導者達は、いずれについても楽観していないだろう。

対米交渉のアンカー役と目された王岐山は、米国が制裁を発効させる7月6日前に姿を現さなかった。「いま出ていっても、トランプ政権に弱みを見せることにしかならない」と考えているからだろう。

だとすれば、王岐山が出ていくときは、制裁措置の撃ち合いが米中両国に限らず世界経済に及ぼす実害がはっきり見えてきて、世界中で悲鳴が上がるときだ。そこで米国がどこまで続けるつもりかを見極めようとするだろう。

役者っ気もある王岐山のことゆえ、「トランプさん、仮に貴方が2024年まで大統領を務めるなら、中国人民と中国共産党は、最後まで貿易戦争にお付き合いする覚悟だ」と啖呵を切るだろう。

 

日中戦争並みの泥沼化も

むしろ、トランプ政権側が情勢を楽観しすぎているのではないか、気懸かりだ。「中国の対米輸入額は1300億ドルしかない。我々が制裁規模を2500億ドル、4500億ドルと引き上げていけば随いて来れなくなる」といった見方でいるらしいからだ。

中国の指導者は経済の損得勘定だけで判断する訳ではない。ほかに政治勘定もあって、ここで恫喝に屈するような弱腰を見せれば、「売国奴!」の罵声を浴びるのだという中国の「国情」をまったく知らないのだろう。

昔「一発殴ればぎゃふんと参る」と過信して中国に攻め込んで、高い計算違いのツケを払った国があったことを彷彿とさせるような成り行きだ。

「月満つれば則ち虧(か)く……」習近平はこの数年間「上げ潮」に乗っていた自分の運気が下降曲線に入ったことを感じていることだろう。しかし、いま運気の上昇を感じているように見えるトランプにもやがて下降のときが巡ってくる。

不合理なのは、そういう局面に至るまで、さらには至った後も、トランプと彼を選んだ米国民が「自業自得」の罰を受けるよりも、もっと過酷な罰を力の弱い無辜の国の国民が受けることだ。