米中貿易戦争激化で、ついに習近平に「激烈批判」が続出

「政変」は起きるのか
津上 俊哉 プロフィール

好機は去り、過剰債務問題深刻に

中国には今世紀の初めから「戦略的機遇期」という言葉があった。「比較的平和な世界で、自由貿易体制を活用して中国の経済成長を図ることができる得難いチャンスの時期」だという意味だ。

いまの米中関係は、中国があと15年、できれば30年続いてほしかった「戦略的機遇期」を、突然米国から「もう終わりだ」と通告されて呆然としているようなところがある。

自信をつけて自己主張を強める中国だが、一方では「いまの中国はまだまだダメだ」といった否定的なセルフイメージも根強いので、米中貿易戦争勃発に直面して、とくに経済の先行きについて、にわかに不安が広がっている。

先に「中国は昨年から景気が悪くなることを覚悟して、引き締め色の強い経済政策を採ってきた」と述べた。過去にも本欄で取り上げたことがある問題だが、手短に解説する。

習近平は1期目にこれまでの投資と借金頼みの成長モデルからの脱却を目指した「新常態」路線を打ち出したが、2016年に地方政府が公共投資アクセルを踏み込むのを許したせいで問題がぶり返した。

いま中国経済が抱えている、金融リスクの高まり、地方政府の債務累積・財政難などは、みな、この「ぶり返し」がもたらした後遺症だ。

とくに、地方政府のインフラ投資は、地方政府の財務体質の悪化によって銀行が金を貸せる事業ではなくなっている。

その隙間に入り込むかたちでシャドーバンクが金を貸す、貸金債権は直ちに転売されて高利回りの「理財商品」に化けて一般投資家に売られる……「問題がおきたときは、お上が何とかしてくれる」という「暗黙の保証」信仰が根強いせいで、そんな「リスクを煮詰めた」ような危ない金融が膨張してしまった。

事態を強く憂慮した当局は昨年から、金融調節を通じて市場金利を引き上げて金融機関のリスクテイクを抑止し始めた。それとともに、従来の金融監督の手の届かない領域で膨張した危ない金融に対する監督を強化すべく、簿外で処理されている業務を財務諸表に取り込むこと、理財商品の元本保証慣行の禁止など、思い切った措置を計画してきた。

シャドー金融のバルブを閉める、財源もないのにインフラ投資を止めない地方政府を締め上げる……5年、10年前なら経済の大失速を招いたであろう「荒療治」だ。

それでも経済が最近まで減速の兆しを見せなかったのは、この5年で急成長した「ニューエコノミー」の下支えがあったからだ。

2期目に入った習近平政権はそれを頼みにして「いまなら景気が減速しても切り抜けられる」と踏んで金融のデレバレッジの大課題に取り組もうとした訳だ。

 

このままでは日本の二の舞

6月半ば、「5月の固定資産投資は18年ぶり、実質消費は15年ぶりの低い伸び」と、いよいよ成長減速が数字に表れ始めたが、それと軌を一にして米中貿易戦争が深刻化したことが大誤算だった。

トランプ政権が貿易戦争を再燃させたのを見て、ビジネスマインドは一気に悪化、株も人民元も急落する結果になった。

そのせいで、「断固進める」はずだったシャドーバンキング規制、中でも最も有害な「暗黙の保証」信仰の解消を狙った理財商品に対する規制導入を先送りする雰囲気が強まっているという(権威ある経済雑誌「財新」の7月8日付け報道)。想定外の経済減速、ビジネスマインドの悪化を見て、政府が動揺している様子が窺える。

1期目の「新常態」路線が頓挫したのも、2015年に起きた株暴落と元安騒ぎのせいで景気拡大を求める声が強まったからだった。

今度はトランプとの貿易戦争が理由だという……・かねて、過剰債務問題を強く警戒し対策を訴えてきた習近平の一の経済ブレーン、劉鶴副総理などは「今を逃したら、いつ経済政策の脱線を元の軌道に戻せるのか」と訴えていることだろう。

日本は1990年代、バブル崩壊後の落ち込みを財政出動で乗り切ったせいで、財政が極端に悪化、それを小泉政権がやや快方に向かわせたと思ったら、今度はリーマンショックが来ていよいよ解決不能な境地に陥ってしまった。

劉鶴副総理は、「いまデレバレッジを先送りしたら、そんな日本経済の轍を踏むことになる」と憂えているのではないだろうか。中国が直面する金融問題も一皮剥けば(地方を中心とする)財政問題に帰するところが大きいからだ。

「西側より優れた政治システム」を以てしても、できないことはあるらしい。