大量殺人の方針は上海で決定…? オウムと中国の「知られざる絆」

中国にもハルマゲドン思想はあった
安田 峰俊 プロフィール

中国版ハルマゲドン

いっぽうで白蓮教それ自体も興味深い。白蓮教は仏教や道教とペルシャ由来のマニ教が混淆して生まれた宗教で、14〜18世紀の中国でしばしば民衆反乱の母体になった。

現世には滅亡の闇「劫」が迫っているが、救済者(メシア)である弥勒仏(マイトレーヤ)がこの世に転生する。弥勒仏を信じるものだけが光り輝く理想世界に導かれる、というのが白蓮教の教えだ。朱元璋が建国した「明」という王朝名も、この概念を意識して命名されたという説がある。

 

末期のオウムは、ハルマゲドンによる世界の滅亡がせまるなかで、救世主キリストでありグルである最終解脱者・麻原彰晃がこの世を導き、日本をシャンバラ化してオウムの千年王国を建設すると主張していた。白蓮教の終末論のイメージと非常によく似ている。

また、白蓮教はマニ教の善悪二元論の影響から、世界を「光明と暗黒」「善と悪」に厳しく分けるが、これは「暗黒の世」は積極的に破壊すべきという救済思想につながる。往年、オウムは古今東西の宗教の終末思想や宗教反乱の歴史をかなり詳しく研究しており、当然ながら白蓮教も研究対象に入っていただろう。

※オウムの機関誌に掲載されていた、救世主である弥勒(マイトレーヤ)と麻原をなぞらえるような記事。(『ヴァジラヤーナ・サッチャ』vol.4より。)

麻原が他の中国の皇帝ではなく、わざわざ朱元璋の生まれ変わりを自称した理由には、白蓮教や弥勒信仰への知識が関係していた可能性が高い。麻原が朱元璋ゆかりの地を尋ねる「前世を巡る旅」の過程で、武力による日本国家の打倒や「救済」を理由にした無差別大量殺人テロの考えを最終的に固めたことも、やはり腑に落ちる気がする。

もちろん、朱元璋や白蓮教が麻原にどこまで影響を与えたのかは不明であり、他の宗教の終末論の影響のほうがより大きかったかもしれない。麻原本人がすでに物言わぬ人となった以上、その詳細が再び明らかになることも、もはやない。

だが、前世紀の末に未曾有のテロを起こしたオウムという巨大カルト教団に対して、ロシアは武器を与え、チベットは権威を与え、中国は終末思想の影響を与えていた――。麻原の死にあたってそんな図式を指摘しておくのは、決して無駄ではないはずだ。