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自分が売買される危険も…無国籍の子どもたちが直面する理不尽な現実

タイ「洞窟救出劇」のもう一つの側面

無国籍の子どもたち

タイ北部のタムルアン洞窟に閉じ込められ、ほぼ3週間ぶりに救出された少年サッカーチーム。世界から安堵の声と喝采を浴びる中、コーチと少年3人がタイ国籍を有しない無国籍者であることがわかり、話題となっている。

無国籍者とは通常出生時に父または母の国の法律、または出生地国の法律に基づき自動的に国籍が決まるところ、諸事情によりいずれの国籍も与えられない、取得できない、もしくはなんらかの事情で国籍を失った人々を言う。

国連UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によれば、無国籍者は世界中で1000万人以上いると推定され、そのうちタイには48万人前後が存在すると言われている。

「少年たちにとって最大の希望は、国籍を取得することだ。彼らはチェンライ県外に遠征するのにも苦労していた」

サッカーチームの創設者は、救出に感謝する一方で、少年たちが日常的に直面している苦境に対して言及した。

移動も制限された無国籍の子どもたちは「プロのサッカー選手になる」という夢を見ることも許されないのだ。

この出来事をきっかけに、彼らにタイ国籍を付与する動きが始まったということだが、そもそも彼らはなぜ「無国籍」なのか。「無国籍」とはどういう状況のことなのか、あらためて考えてみたい。

同時に、「自分とは無関係」と思っている日本人とて「無国籍リスク」から逃れられないこと、また、日本で「無国籍」状態を脱する困難についても指摘したい。

 

そもそも「タイ人」とは誰か?

日本のように国境線が具体に意識できる島国とは違い、19世紀後半、ヨーロッパ諸国がアジアに進出してくるまで、そもそもタイには「国境」「領土」、また「タイ人とは誰か」という概念が存在しなかったという。

「タイ国籍法の一部改正—タイ国籍法の変遷と無国籍問題—」(大友有)によれば、現在、タイの無国籍者は主に3つの類型に分類される。

第1は山岳少数民族。

第2は内戦等の理由で近隣諸国から流入した難民。特に冷戦時代の反共・親米政策を背景にタイ国籍を剥奪された元ベトナム難民とその子孫。

第3は近年、労働者として大量に流入した移民労働者とその家族。

サッカーのコーチと3人の子どもたちは、このうち第1の山岳少数民族という背景を持つ。

タイはマレーシア、ミャンマー、ラオス、カンボジアと4つの国と陸路で国境を接しているが、そのうち、今回救出が行なわれた北部チェンライ県タムルアン洞窟があるエリアはかつて世界最大規模でケシの栽培が行なわれていた「ゴールデン・トライアングル」(黄金の三角地帯)と呼ばれた地域で、ラオス、ミャンマーの2ヵ国と国境が接している。

「山地民」と呼ばれる山岳少数民族は国境をまたいでも生活しているため、どちらの国に帰属するか等、複雑な判断も必要になってくる。

タイでは1956年以降住民登録制度を導入、世帯ごとに住民登録票が付与されるようになった。

子の出生証明書を提出して住民登録をすれば子どもはタイ国籍を取得するが、そもそも山地民は役所から遠く離れているため国籍取得の前提条件となるこの住民登録にも行けず、結果、大量の無国籍者を発生させることになったのだ。