あなたが買っている「体にいい水」はニセ科学かもしれない

ラボ・フェイク 第5回
伊与原 新 プロフィール

"活性化"された「水」の正体は?

霊水の類いはもちろん、ただのオカルトである。向こうもそこに科学的裏付けがあると強弁することはない。某バラエティ番組の決め台詞ではないが、「信じるか信じないかはあなた次第」というわけだ。そういう意味では、まだ罪は軽い。

巷には、もっと悪辣な「水」があふれている。その代表が、磁気や鉱物の力によって水を"活性化"すると謳う商品だ。能書きにはもっともらしい科学用語がちりばめられているが、ニセ科学と考えてまず間違いない。

東京都生活文化局がおこなった検証などを見ても、こうした業者の主張は似たり寄ったりである。強力な磁石でつくった磁場の中に水をとおす。トルマリンなどの鉱物やセラミックと接触させる。そうすることで、「クラスター」の小さい水ができる。細胞に浸透しやすく、まろやかでおいしい。野菜の農薬をよく落とし、水道管のサビを除去する。

それにしても、「クラスター」とは、人々を煙に巻くのにもってこいの用語を見つけてきたものだ。怪しい水ビジネスを見極めるキーワードなので、覚えておいて損はない。「数個の水分子が水素結合によって集まっている状態」のことである。

液体の水がクラスターとして存在しているのは確からしいとしても、個々の分子集団は継続的なものではなく、ピコ秒(1兆分の1秒)単位で生成と消滅を繰り返していると考えられる。しかも、現在の技術では、クラスターの大きさを測定することはできないのだ。水のクラスターという言葉が出てきたら、もうその商品の話に耳を貸す必要はない。

磁気による水の"活性化"に関しては、こんな話がある。おそらく日本で一番有名な科学雑誌『ニュートン』で、かつてこんな実験が紹介された。キュウリでやじろべえを作り、その一端にネオジム磁石を近づけると、やじろべえがわずかに動くというのである。

これを、一部の水ビジネス業者が利用した。磁石に反応するのは、キュウリの水分だ。水には磁性がある。したがって、強力な磁石を使って水に磁場を加えてやると、その性質が活性化した「磁化水」になるのだ、と。

 

このロジックの前段は、実は正しい。水は、外部から磁場を加えてやると、それと逆向きのわずかな磁性を示す(反磁性という)。ただし、磁場の外に出た途端、水は磁性を失う。つまり、磁石のそばを離れた時点で、ただの水に戻るわけだ。

したがって、後段の「磁化水」などというものは、デタラメもいいところである。「磁気処理水」「磁気活性水」など呼び名は様々で、「水をイオン化」「電子を供給」「不純物を還元」といった文言もよく踊っているが、惑わされてはいけない。

Frog diamagnetic levitation水の反磁性を利用すれば、生きたカエルを宙に浮かせることもできる(オランダ・ラドバウド大学による実験写真、ウィキメディア・コモンズより

トルマリンによる"活性化"も、また然り。「電気石」の別名をもつこの鉱物は、熱や圧力を加えると静電気を帯びるということで、ニセ科学業界で重宝されている。もちろん、それを水に接触させたからといって、水の物理的な性質が変わるわけではない。

科学的事実の一部を都合よく切り取り、それをねじ曲げて飛躍させ、一見"科学風"の説明を作文する。ニセ科学商法の常套手段だが、そのデタラメさは霊水と何ら変わらない。霊的エネルギーの代わりに水に磁場を加え、聖なるクリスタルの代わりにトルマリンをひたしたというだけの話である。

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