あなたが買っている「体にいい水」はニセ科学かもしれない

ラボ・フェイク 第5回
伊与原 新 プロフィール

この騒動は、最初から番組が仕組んだヤラセであった。アルバレス青年は、短期的に演技の訓練を受けただけの素人。"全米で話題"という触れ込みもまったくのデタラメだったのだが、オーストラリアのメディアはその情報の裏を取ることさえしていなかった。

この壮大なヤラセは、単なるイタズラではない。「シックスティ・ミニッツ」は、マスコミと人々がいかにたやすく騙されるかということを実証しようとしたのだ。今となっては信じがたいことだが、1980年代においては、チャネリングをはじめとする「ニュー・エイジ思想」がそれだけ大きなムーブメントとなっていたのである。

ヤラセの裏には、番組から依頼を受けた凄腕の仕掛け人がいた。プロの奇術師、ジェームズ・ランディ。本連載ラボ・フェイク第2回(<ホメオパシーは「実証された」!? 一流学術誌に載った論文の真相>http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55926)でも紹介したように、ニセ科学やオカルトの正体を暴くことをライフワークにしている人物だ。

[写真]ニセ科学を暴くことに情熱を傾け続けたマジシャン、ジェームズ・ランディ(Photo by GettyImages)ニセ科学を暴くことに情熱を傾け続けたマジシャン、ジェームズ・ランディ(Photo by GettyImages)

ランディはアルバレス青年に、脇の下にボールをはさんで脈を止める方法などを仕込み、カルロスとしてメディアの前に出る際は小型無線機を使って逐一指示を与えた。カルロスが披露した不思議な力は、すべてランディによる簡単なマジックとコールド・リーディングだったわけだ。

 

「カルロスの水」が売り出されることは当然なかったが、もしそれが実際に作られていたら、その奇跡のような効能を讃える声がオーストラリア全土で上がったことだろう。もちろん、プラセボ効果による効能である。

同業者にかつがれたマスコミ各社は激怒し、カルロスを取り上げたメディアと無視したメディアの間で非難の応酬が起きた。ある記者は「マスコミ不信を助長する行為だ」と「シックスティ・ミニッツ」を弾劾したそうだが、説得力はない。

似たような状況は、今の日本にもあるのではないか。ある週刊誌やテレビ番組がニセ科学的なものを肯定的に取り上げると、別のメディアがそれをインチキだと糾弾する。だが話題が変われば、互いの立場がそっくり入れ替わっていたりするのだ。科学的な態度を堅持することが売り上げや視聴率につながらないというのは、悲しい現実である。

せめてもの慰めに、私は想像する。明治33年、長南年恵が尋問を受けた法廷に、もしジェームズ・ランディが同席していれば、どんなトリックを暴いてくれただろうか、と。

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