Photo by iStock

「拳銃を撃ちたくても撃てない」という日本の警察のジレンマ

「交番」はなぜ狙われるのか?
世間を震撼させた富山県の交番襲撃事件。元自衛官の男が拳銃を強奪、結果として2人の人命が奪われた。じつは元自衛官による交番襲撃事件は過去に都内でも起きていたが、その教訓は活かされなかったーー。
警察官の命とも言える拳銃だが、実際に発砲されることは少ない。たとえ凶悪犯と対峙しても軽々とは撃てない、そのジレンマを、警察事情に詳しいジャーナリスト、今井良氏が解説する。

元自衛官によるもうひとつの襲撃事件

「ありえないしあってはならない事件がまた起きてしまった」

ある警察関係者は悔しそうに筆者につぶやいた。2018年6月26日。世間を震撼させる事件が富山で発生した。富山県内に住む元自衛官の男が交番を襲撃。警察官を刺殺した上、拳銃を奪い更に付近の小学校の警備員に発砲し殺害した。元自衛官の男は駆け付けた警察官による発砲を受け、殺人容疑で現行犯逮捕された。男は一時重体だったが現在は回復に向かっている。

「元自衛官の男は警察官から奪った拳銃に加えて複数の刃物も所持していた。最終的には小学校の襲撃を企てていたとみられている。もし実行されていたらと考えるとぞっとした」(警察庁関係者)

Photo by iStock

元自衛官によって交番が襲撃されるーー。市民に恐怖を与える事件はかつて都内でも起こっていた。平成元年5月16日に発生した、練馬区の警視庁練馬警察署中村橋派出所襲撃事件である。事件は深夜午前3時ごろに発生。派出所を訪れて道などを尋ねていた元自衛官の男が、いきなり応対した警察官(当時35歳)をサバイバルナイフで切りつけたのだ。警察官は胸などを刺されその後死亡。

もうひとりの警察官(当時30歳)は犯行後に逃げた男に追いつきもみあいとなり、やはり致命傷を負ってしまう。傷を負いながらも這って男を追い続けようとした警察官はその場で絶命する。壮絶な殉職だった。

元自衛官の男は現場から逃走していた。拳銃を奪われることはなかったが、現職警察官2名が刺殺されるという事の重大さをかんがみて、警視庁刑事部捜査一課は異例ともいえる4つの捜査班を投入。更に練馬署に特別捜査本部が設置され、実に200名の捜査員が犯人を追うこととなった。

 

犯人の痕跡は現場に残されていた。当時、捜査に関わった元警視庁刑事が説明する。

「警察官の1人が拳銃を発砲し、目覚めた住人が逃げた男を目撃していた。髪は長め、上下ともに黒っぽい服装のがっちりした体格の人物だった。現場の派出所から西の方向に犯人のものとみられる足跡が見つかったんだ。辿っていくとそれがジグザグに道路を走っていることを示していたんだ。軍事訓練を受けた者の犯行と捜査本部は色めき立った」

ジグザグに走る行動は、背後からの銃撃をかわすための動作に他ならなかった。つまり犯人は軍事訓練を受けた人物、自衛隊関係者である可能性が浮上したのである。

犯人を追った警察官は威嚇発砲をしていた。その銃弾をかわすためにジグザグに走っていたのだ。事件発生から5日後には付近の公園で、ビニール袋に入れられたサバイバルナイフなどが発見される。ナイフとともに見つかった緑の軍手に捜査本部は注目する。詳しく流通経路を調べると自衛隊内部での専売品と判明。捜査の結果、中野区内に住む20歳の元自衛官の男が重要参考人として浮上した。

任意同行して取り調べたところ犯行を認め、逮捕となった。男は陸上自衛隊に所属していた経験を持ち、ナイフの扱いなどに熟知している接近戦部隊に所属していたことも判明する。男は調べに対し「金が欲しかった。銀行強盗をしようと警察官の拳銃を狙った」と供述している。

拳銃が奪われていたら一般人に被害が及びかねない深刻な事件だった。しかし30年後にはそれが現実のものとなってしまった。当時、警察組織内で共有された教訓は活かされなかった。