13行あった都市銀行は5行に減った。先が見えない世の中はまだまだ続きそうだが(photo by gettyimages)

49歳で会社をやめた作家が教える「会社がなくなる時代の生き方」

あなたは、楽しく働いていますか?
不祥事によって会社がなくなる。なくならないまでも、業績不振でリストラの対象となってしまう。定年まで安泰だと思っていた人生が、突然崖っぷちに追い込まれることが簡単に起こる世の中になってしまった。7月16日からスタートするドラマ『ラストチャンス 再生請負人』(毎週月曜日、22:00~22:54)は、そんな予想だにしない崖っぷちに立たされた男の苦闘を描く。ドラマの原作者で、会社の不祥事に翻弄され、定年まで10年以上を残して大手銀行を退職した経験を持つ江上剛さんに、サラリーマンがこの先行き不透明な時代生き抜くためのアドバイスを聞いた。

私には何の技能もないのか?

粉飾決算事件の東芝、欠陥エアバッグのタカタなど、ここ数年の大企業をみただけでも、経営の失敗や不正によって解体されていく会社のなんと多いことか。

新入社員として入った会社で定年を迎える。そういうケースは数少なくなりつつあるのでしょう。かくいう僕だって15年前、26年間過ごしてきた銀行員という仕事を49歳で辞めました。小説家で食べていけるアテはなかったけれど、その先、そこにいて上司のように出世していけばダメになる、嘘つきになる自分が見えたから、「ヤーメタ」と言ったのです。

 

私が入社した頃に13行あった都市銀行は、いまやわずか5行。銀行に限ったことではありません。今をときめくIT企業でさえ、ひとつのコンテンツの成否で、大成功を収めたり、会社そのものがなくなったりする。あのトヨタだって、自動車業界の急激な変化に必死で対応しています。いつまでもそこに安定してある企業はもうなくなってしまいました。

東芝ブランドが地に落ちることになるとは、20年前には誰も予想しなかったはずだ(photo by gettyimages)

「ゾウの時間、ネズミの時間」の例で言えば、会社はネズミの時間で生きる時代になった。ゾウのようにゆったりとした心拍で長生きをするのではなく、ネズミのようにせかせかと心臓を動かして数年で死を迎えるような時代なのです。

会社はいつまでもあると思うな。

厳しい言い方ですが、それが現実です。僕に仕事をくれる出版業界だって同じでしょう。ではどうするか。まず考えるのは転職です。20代の転職ならまだしも、40歳代、50歳代になってからの転職に不安はつきものです。自分にどんな才能があるのか。どんな特技があるのか。考えてみるけど、見つからない。そう思うサラリーマンがほとんどでしょう。

僕は、取材のために専門職のハローワークに行ったことがあります。小説家という身分は明かさず、ただ自分の経歴、職歴は正直に話しました。

銀行の支店長をやっていました。人事部にもいました。不良債権の処理も行いましたし、ヤクザとも対峙しました。と、そんな話を面接相談官としても向こうは聞く耳を持ちません。「具体的にどんな実務ができるんですか」と、冷静です。相談をしていると、こちらの自信はどんどんなくなっていきます。これまで培ってきたものはなんだったのだろう。これはとても転職なんかできないじゃないかと、鼻を折られて帰ってきました。

考えてみれば、サラリーマンの多くは資格をもとに働く専門職とは言えないのです。営業にしても、人事にしても、特定の技能を使って仕事をする職人ではないのです。だいたい、出世して会社に残っている人は専門性がないからそこまで昇りつめる。様々な部署を回って会社全体の仕組みを分かっている人が出世する。そういう組織が会社です。

では、相談官の言うとおり、私にはなんの技能もないのでしょうか。こちらも冷静になって考えます。僕は若い頃から、仕事とは無から有を作ることだと思ってきました。既存の取引先に融資を重ねるのではなく、新たな会社と付き合い、その会社の将来の姿を描きながら融資を提案する。

行き先も適当に書いて外回りをしていたものですから、「アイツは好きにやらせておいた方がいい」と上司に言われるような銀行員でした。自分が楽しい仕事の方法で、実績を上げるのが楽しい。そういうサラリーマンでした。

第一勧業銀行(現・みずほ銀行)の総会屋便宜供与事件当時は、僕は本部の広報部次長。銀行の上司から逮捕者が出たり、自殺者が出るというめまぐるしい状況のなかで、様々な対応に迫られ増しあ。それに逃げずに向かってきたつもりです。なにか問題が起こったときに、そこから逃げずに向かっていく姿勢と覚悟。それはまさに長年勤めたサラリーマンの技能であり財産ではないでしょうか。

『ラストチャンス 再生請負人』(講談社文庫)で描いた主人公も、問題から逃げない誠実なサラリーマンでした。40代半ばで銀行を辞め、企業の再生に奔走する男と、従業員の物語です。主人公の樫村は、大手銀行との合併を機に出向を命じられて、辞めてしまいます。実力ではなく、銀行の派閥で行われる人事に嫌気がさしたのです。

人を頼って仕事を探しているときに、ある外食チェーンのCFOをやらないかと誘われる。財務担当のナンバー2の座です。ところがいざ会社に入って財務状況を調べてみると、巨額の隠れた負債が見つかる。お飾りの社長はサッサと逃げ出し、樫村は社長となって会社再生に乗り出します。彼が逃げ出さなかったのは、銀行員時代から染みついてきた、問題からは逃げないというサラリーマンとしての姿勢を身につけていたからです。

これは友人の元銀行員をモデルにしています。その友人は、再生を果たしてCFOを去るとき、従業員たちから熱い感謝の言葉をもらったそうです。株主やオーナーではなく、働いている人に喜びを与えられた。そこに僕は共感しました。