講談社創業者が師範学校で実践した「超・省エネ勉強法」

大衆は神である⑩
魚住 昭 プロフィール

冗談まじりの演説

清治流の省エネ勉強法の結果はどうなったか。成績表を見てみよう。

入学1年目の成績表には、修身88点、歴史86点、数学85点、博物91点と比較的高い点数が並んでいる。地理や物理などの点数が少し低いので、清治の各科目の得点を平均すると79点になった。これは、本科クラス24人の上から8番目の成績である。悪くない。

しかし、2年目になると74点で、上から14番目に下がる。さらに第三学年は72点、第四学年は70点になり、クラス17名中16位に落ち込んでいる。ついでに付け加えておくと、卒業時の総合評価は、甲乙丙丁の四段階評価で、学力は「乙」、人物は「丙」と記されている。つまり学力以上に、日ごろの生活態度がかんばしくないという判定である。

それはそうだろう。たとえば土曜の午後、同級生たちはシーツやシャツ、靴下などの洗濯、それに靴磨きをした。ところが、清治は洗濯や靴磨きを一切しようとしない。それどころか、皆が靴を磨いたりしているところへ行き、冗談まじりにこんな演説をしてまわった。

 

「君らは靴を磨く。先輩は褒めるであろう。先生もまたお喜びくださるだろう。君らもまた靴を磨くことに熟達するであろう。誠に結構なことである。けれども見たまえ。この青春の元気旺盛の時代にそんなことをするのを偉いことのように考えているのはよほど考え違いである。靴を磨くことと、大臣になることとどういう関係があるか。靴を磨くということと釈迦、孔子、キリストというようなものになるというのとどういう関係があるか……」

清治は官給品の靴を履きっぱなしにして、破れて履けなくなるまで一度も靴墨を塗ろうとしなかった。シャツも靴下も汚くなるまで使って、捨てた。そうして時々、他人のきれいなシャツや靴下を無断で借りた。それが汚くなると、妙に丁寧な口調で、

「これは、あなたのものをお借りしたのですが……」

と言って、洗濯もせずに返したという。

(つづく)