公務員史上最大の事件「東京医大への裏口入学」はなぜ起こったか

一番のバカは誰か
週刊現代 プロフィール

今回、佐野に「私立大学研究ブランディング事業」への選定を依頼していたとされるのが、東京医大のトップである臼井正彦理事長だ。

臼井氏は同大学の学長を務めていた'09年、約50人の医局員が博士号を取得する際に「謝礼」として、総額およそ500万円を受け取っていたと報じられたことがある。

だが、臼井氏は厳重注意処分を受けたのみで、その座を離れることはなかった。前出の元教授は、こうして続いていった臼井氏の「支配」こそが今回の事件を招いたのだと指摘する。

「臼井さんは、'08年に学長に就任し、そのまま'13年には理事長になっている。つまり、およそ10年間にもわたってトップの地位に座り続けているのです。何か問題が起きても、臼井さんに直接指摘できる人は周囲に誰もいません」

 

国民の税金で入学させた

東京医大の「裏口入学」という贈賄も、この長期体制が生んだ悪弊だったという。

ただ、ここで一つの疑問が湧く。そもそも佐野の息子が実力で東京医大の医学科に入学することができていれば、贈収賄は起こっていなかったのではないか。

佐野の息子は、医系大学受験を得意とする予備校の出身だという。だが、優秀な周囲の受験生と比較して、勉強を重ねても、あまり成績は向上しなかったようだ。

つまり、佐野はデキの良くない息子を心配して、端から「援護射撃」の準備をしていた――。そういうシナリオも浮かんでくるのだ。

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だが、仮にどれほど息子を思いやったが故の行動であれ、教育を司る文科省のエリートが私欲のために便宜をはかるなど、言語道断であることに変わりはない。元文科省官僚で、京都造形芸術大学客員教授の寺脇研氏が語気を強めて言う。

「今回の件で恐ろしいのは、100年以上も歴史のある東京医大で、贈賄が行われていた、ということです。ここがやっているなら他の私立医大でも同様のことが行われているのでは、と思われかねない。

佐野容疑者は高等教育局で2回も働いていて、入試を担当していた。素人ではなく、プロの官僚が国民の税金を自分の息子の裏口入学のために使っていたことには、倫理観を疑います。

これが発覚しなければ、こんな人物が文科省のトップになってしまったかもしれないと考えただけで怒りが湧いてきます。これは、公務員史上最悪の事件ですよ」

現時点で佐野の息子が合格を自分の「実力」だと信じていたのか、それとも父の「援護」のおかげだと知っていたのかは判然としない。いずれにせよ、息子はもう東京医大には通えないだろう。

結果的に佐野は自分だけでなく、息子の将来をも滅茶苦茶にしてしまった。「デキの悪い子ほど可愛い」というが、この事件でもっともバカだったのが「親父」の佐野だったことは言うまでもない。

(文中一部敬称略)

「週刊現代」2018年7月21日・28日合併号より