女性を避け、社会とも断絶、米国の非モテが起こす「サイレントテロ」

最終的には「出家」を目指す
八田 真行 プロフィール

ブラックピルを飲んだ人々

レッドピルよりも強力なブラックピルを飲んだ、という人々もいる。それがMGTOWだ。

MGTOWは「ミグタウ」と発音するようだが、Men Going Their Own Wayの略である。我が道を行く男たち、とでも訳せようか。一言で言えば、女性中心社会に対抗すべく、女性との付き合いを極力避ける男たち、ということである。

2015年のVICE誌の記事によれば、この概念は2000年代初めに生まれたらしい。検索回数の推移を示すGoogle Trendsを見ると2010年前後から急増しており、近年注目が高まっていることが分かる。

MGTOWの基本は、女性と付き合うのはコスト的にもリスク的にも割が合わないという考え方だ。MGTOWにとって、女性は男性を食い物にする捕食者であり、男性の自己所有権を侵害する存在と見なされる。ゆえに、女性を避けることで、男性は自分の人生を追求することが可能になるというのが、MGTOWの考え方だ。

インセルと違い、MGTOWは暴力行為に走るわけではないので、マノスフィアの中では穏健に見えなくもない。しかし、ブラックピルを飲んだ彼らに見えている世界というのは、インセルよりもある意味ダークで絶望的なものである。

MGTOWに見える社会の序列は、権力や経済力のある女性(例えばヒラリー・クリントン)がトップで、次にフェミニズムに守られた女性全般、そして動物愛護運動に守られた動物が続き(!)、男性はその下というものだ。

男性は誰も守ってくれず、女性にモテなければ馬鹿にされ、離婚すれば慰謝料や親権争いで常に負け、セックスすれば後日レイプ扱いされ、いわば「給料をもらう奴隷」に過ぎないという、被害者意識に満ちた世界観がそこにある。しかも、そうした社会をテロでひっくり返す、というインセルと違い、MGTOWにあるのは、このような秩序は変えようがない、という諦観なのだ。

 

最後は「出家」を目指す

インセルは女性と付き合ったことがない男性が多いが、MGTOWには離婚経験者もそれなりに含まれている。

それもあってかMGTOWには、フェミニストはもとより、フェミニズムに批判的で男性に従順なNAWALT(Not All Women Are Like That、「女がみんなそんな風ではないわよ」などと言って男性に近づいてくる女性の意)であっても、本音では男性をだまし、操って寄生しようとしているに違いないという、鉄のごとき信念がある。

また、インセル同様、自分は遺伝子のレベルで絶対に女性には相手にされないのだ、という確信もある

それでもなお自分程度の男を相手にするということは、ようはイケメンに相手にされないから、ということだ。なので、ミソジニーと自己嫌悪の深さという点では、MGTOWはインセルを上回る可能性がある。ちなみに、筆者がMGTOWを巡る言説を見て回った中で最も絶望に満ちた一言は、「セラピーで顔は治らない」というものだった。

ところで、MGTOWにはこじらせ具合に応じてレベル0からレベル4まであるという。

レベル0は、先に出てきたレッドピルを飲み、この世は女性に支配されている、という認識をとりあえず得たという段階である。

レベル1では、結婚のような女性との長期に渡る関係が棄却される。

レベル2では、女性との短期間の関係も排除される。

レベル3では、生活に必要な最低限の収入を得るための仕事を除き、社会と経済的な関係を絶つ。

レベル4では、そもそも社会との関係を絶つ。自殺も選択肢に含まれる。

レベル3で唐突にお金の話が出てくるのが不思議だが、これは、女性や女性を有り難がるリベラルに支配された政府に税金を払いたくない、ということらしい。ここが、納税拒否運動という側面のあるティーパーティ運動や、政府による所得の把握を避けるというビットコインのような仮想通貨、あるいはその背景にあるアナルコ・キャピタリズム(無政府資本主義)との接点にもなっている

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