100人に1人が持っている「吃音(どもり)」の謎

歌だとなぜどもらないんだろう?
伊藤 亜紗 プロフィール

吃音は発熱と同じ?

難発は体が硬直するので本人にも苦しさがある。そこで多くの当事者が自然に獲得するのが「言い換え」という工夫です。

言い換えは、難発になりそうな言葉を、直前で同じ意味の別の言葉にすり替えて言う、というやり方。たとえば「いのち」という言葉が出なそうだなという予感がしたら、これを「生命(せいめい)」等の別の語に言い換えて言うのです。「いのち」と言おうと準備していた体をはぐらかすことで、にらみ合いの緊張状態をかわすのです。

言い換えは、難発を避けるためには確かにクレバーな対処法です。けれども同時に、本当に言いたかったのではない言葉を言うことになる、というネガティブな側面も持っている。

だから、人によっては、言い換えは工夫でありながらも症状でもあると感じる人もいます。中には、長年やっていた言い換えをやめて、連発しながらしゃべるやり方にもどした方もいます。

 

興味深いのは、ある現象が、一方では対処法であり、他方では症状でもある、という二面性を持つこと。

言い換えだけでなく「難発」だって、もともとは連発することを避けるための対処法でした。さらにはそもそもの「連発」でさえ、言葉が出るようにするための準備と考えるならば、対処法だと言うこともできます。

対処法と症状は表裏一体である。これはもしかしたら吃音にかぎらず、体に起こる現象に広くあてはまることなのかもしれません。

たとえば、風邪をひくと、熱がでます。一般にはネガティブな症状と判断されますが、体からすれば、体内に侵入したウィルスに対抗するための「対処法」として熱を出しているにすぎない。「仕事に行かなくちゃ」「学校に行かなくちゃ」という日常生活の要請から、熱が症状と判断されています。