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父の「前妻」に会いに行ったぼくを、待ち受けていた現実

現役証券マン・家族をさがす旅【24】

78歳で倒れ、入院した父。息子で40代の「ぼく」は、ぶっきらぼうで家族を顧みなかった父にずっと反発を覚えていたが、父に前妻がいたこと、そして自分の腹違いの兄が存在することを聞かされて以来、家族の過去を調べるようになっていた。

父のかつての知人を探し出し、昔のことを尋ねてきた「ぼく」だったが、ある日、ずっとためらってきた「もうひとつの家族」に会うことを決意する。現役証券マンで作家の町田哲也氏が、実体験をもとに描くノンフィクション・ノベル『家族をさがす旅』。

第1回はこちら:「危篤の父が証券マンのぼくに隠していた『もうひとつの家族と人生』」

ずっと避けてきたけれど

父の前妻である下田栄子さんの実家に行ってみようと思ったのは、10月末、JR宇都宮線に乗っているときだった。

ぼくは都内の自宅からO市の実家に通うのに、新宿経由の赤羽で乗り換えることが多かった。その日の電車は宇都宮行きで、ふと停車駅を確認すると、栄子さんの実家の最寄り駅が目に入った。

このまま電車に乗っていけば、栄子さんたちに近づくことができる。そう考えると、遠い存在だった父のもう一つの家族にたどり着けるかどうかは、自分次第のような気がした。

 

ぼくは今まで、彼らに直接会うことを避けていた。父の人生をたどるうえで、栄子さんと健太郎さんの存在は無視できない。しかし彼らにとっては、父はすでに関係のない他人でしかない。40年以上前の過去を掘り返すような行為を、簡単に受け入れるとは思えなかった。

とくに気になったのは、栄子さんと健太郎さんの関係が良好でないと聞かされていたことだった。再婚した母親に離反していく子どもという図式は、離婚した家庭において典型的に見られる。接触の仕方次第では、興味本位で過去をあさる行為と見透かされる可能性があった。

しかし今のタイミングを逃せば、彼らに近づくことのできる機会が当面訪れそうにないのも事実だった。

父はたこ焼き屋を通じて、健太郎さんに少なくない金額を送っていたという。父ともう一つの家族の間に、どんなつながりがあったのだろうか。

たこ焼き屋を通じた二人の関係は、依然として詳細がわからないままだった。母が調べたところでは、店のシャッターに貼り出された案内には、たこ焼き屋の店長が体調不良のため長期休業に入っている旨が書かれていたという。

残された選択肢は、栄子さんの実家に行ってみることくらいだった。父の病気という理由だけが、共通の父親を持つぼくと健太郎さんが近づくことを可能にしてくれるような気がしていた。

栄子さんの実家は、父の昔の戸籍謄本で確認してあった。電話番号もわかったが、直接自分の目で見ておきたかった。「下田徹」という名義で登録されていたのは2012年のことなので、もしかしたらすでに転居しているかもしれない。

父は昔、栄子さんの父親に大金を借りたままになっているという。もしこの土地が下田さん家族のものでないならば、そこには父が影響していると思えてならなかった。

ぼくは最寄り駅で降りると、駅前にあるコンビニに入って目的地までの距離を確認した。歩いて50分以上はかかるという。駅からタクシーに乗ると、栄子さんの実家に向かった。

画像はイメージです(Photo by iStock)

10分程度走ると、周囲には畑しか見えなくなった。車から降りると、舗装していない農道にバッタが飛び跳ねている。小学生の頃、K市の田舎道を歩いていた頃を思い出した。マップで確認した家にたどり着くと、ちょうどおじいさんが草むしりをしている。

「下田さんのお宅はこちらでしょうか?」

近所付き合いの深い田舎では、一帯が全員知り合いの可能性がある。隠さずに切り出すことにした。

「どこの下田さんかわかるかい?」

「はあ……」

「この辺じゃ、たくさん下田さんがいるからさ」

「下田栄子さんです」

「何歳くらいの人だい?」

「もう70を超えてるんじゃないかと思います」

「ああ、だったらあっちだ」

おじいさんは手を挙げると、奥の家を差した。

「2階建ての家があるだろ。あそこに奥さんがいるから。今頃は家にいるんじゃないかな」

「ご本人がいらっしゃるんですか?」

「いやいや。弟さんが亡くなってその奥さんがいるから、話を聞いてみるといいよ」

おじいさんは畑を大回りして、下田さんの家の近くまで送ってくれた。ぼくが間違えて隣の家に挨拶すると、自転車で追いかけてきて家の前まで連れて行ってくれるほど親切なおじいさんだった。

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