3.11から7年。放出された放射性物質はどこに行ったのか?

放射能汚染の「その後」(前編)
雨宮 崇 プロフィール

陸地に降った3~6PBqの放射性セシウムの行方

陸地といっても市街地や農地、森林などさまざまです。

なかでも森林は、福島県の面積のうち71%を占めており、そこに降った放射性物質の行方を知ることが非常に重要となっています(林野庁,2012)。

まず、土壌に着いた放射性物質がその後どのように移動したかについて、見ていきましょう。

一般的に、福島の土壌には雲母由来の鉱物が多く含まれています。それらの鉱物が乾燥・湿潤を繰り返し、風化して開いたところを「フレイドエッジサイト」といい、そのサイトにセシウムは強く結合する性質を持っています(McKinleyほか,2004)。

そのため、地上に降った放射性セシウムの大部分は、イオン化して水に溶けるわけではなく、土壌粒子と移動を共にしています。

風化した雲母粒子中に存在するフレイドエッジサイト風化した雲母中に存在するフレイドエッジサイト

セシウムの「土壌粒子へ強く吸着する」という性質は、土壌深さ方向のセシウム濃度からも見て取ることができます。

放射性セシウムの深度分布放射性セシウムの深度分布(Katoほか,2011)

2011年に福島の川俣町で、土壌を5mmずつ10cmまで掘り、それぞれの深さの土中にどれほど放射性物質があるか、調査が行われました。

その結果、初期に沈着したセシウム137や134の98%が、深さ5cmよりも浅い土中に存在していることが分かりました。

 

これらの放射性セシウムは、耕作や除染といった人為的撹乱がない場所では、この後平均して年間約5mmずつ下方に移動していくというデータもあります。

土壌粒子に強く吸着したセシウムのほとんどは、雨水と一緒に一気に地下水まで移動するのではなく、ゆっくりとしたスピードで潜っていくのです。

そのため、事故直後に表層5cm程の土壌を除染した土地では、空間線量が大きく下がりました。

2011年と2017年の地上1mでの空間線量(原発から80km圏内)
(日本原子力研究開発機構「本件は、平成23年度から文部科学省にて、平成25年度以降から現在まで原子力規制庁の委託事業として実施されている『放射性物質の分布状況等に関する調査』で得られた成果の一部である」)

また、放射性セシウムが土中に潜ることで、上層の土壌の遮蔽効果によって空間線量は低くなります。林縁から20m以遠の森林は除染が行われていないのですが、そういった土地でも空間線量が下がっているのは、放射性セシウムがなくなったからではなく、下に潜っているから、という要因が大きいのです。

一部は河川に流れ出た

陸地に降った放射性セシウムのほとんどは土壌粒子に吸着しましたが、その粒子ごと河川に流れ出たものもありました。その形態は「懸濁態」と呼ばれます。

懸濁態で流れるセシウム137の濃度変化を調べるために、福島の阿武隈川という大きな川と、その支流である口太川という川で調査が行われました。すると、本川でも支流でも、観測開始当初は非常に高かった濃度が急激に下がり、そのあとはゆっくりと下がり続けていることがわかったのです。

懸濁態のセシウム137濃度の経年変化懸濁態のセシウム137濃度の経年変化(恩田教授の講演スライドより)

当然、流れ出る土砂の量は事故直後でも、数年経ったあとでも、大きくは変わりません。

しかし時間が経つにつれ、河川に流れ出す放射性セシウムの量は減っています。これは、セシウムの吸着した土壌粒子が下に沈降していき、雨などで流れ出す土壌表面の粒子の放射能が減ったためだと考えられます。

さらに、その懸濁態の放射能の低下スピードは、市街地や水田、畑といった人為的な活動が活発な場所ほど速いこともわかりつつあります。そのため、流域にそういった土地の多い阿武隈川本川の方が、支流よりも低下スピードが速いのです。

また、懸濁態の流出総量を調べるため、阿武隈川と口太川でセシウム137の累積流出量を計測したところ、どの観測地点の総量も、初期沈着量に対して3%以下に留まりました。

つまり、陸地に堆積したセシウム137のほとんどは土壌にとらえられたまま下方に移動してしまい、河川を通じて海へはほとんど流れ出ていないと言うことができます。

では、ここまでの陸地に降った放射性物質の動態についてまとめます。

●事故により放出され、風に乗り陸上の広範囲に広がった放射性物質は、河川を通じてはあまり動かなかった。
●放射性物質は土壌の粒子に強く吸着し、粒子ごと除染されたり土中に潜り込んだりしたために、結果的に空間線量は減少している。

大気・陸地・海洋で調査研究は続く

上記のようなまとめは、あくまで大きな視点で見たものなので、単位体積あたりの放射能が非常に大きいセシウム粒子やホットスポット、放射性セシウム以外の放射性物質など、これからさらなる解明が求められる課題は未だ多く残っています。

また、事故直後にはヨウ素131も大量に放出されましたが、半減期が8日と短いため、今となっては直接観測することはできません。

そのため、当時のデータをなんとか掘り起こし、今よりもさらに精緻なモデル計算を行うことで、初期被曝の実態を解明しようとする研究もすすんでいます。

農業はどうなっているのか

陸地の空間線量は下がってきているとはいえ、土の中には大量の放射性物質がほとんど動かずにじっと身を潜めていることを見てきました。

一方で、セシウム移行対策や検査体制を敷きつつ農業は再開され、検査をパスした農作物が市場に回っています。

では、農地では具体的にどのような工夫がなされているのでしょうか。次回更新の後編では、農業について詳しく検討していきます。
(後編はこちらからどうぞ)