お金がなければ医師にはなれなかった「マニュアル医師」の危うい診療

「医大裏口入学問題」に思うこと
小田切 容子 プロフィール

マニュアルがないとどうしたらいいかわからない

とある私大卒男性医師で、医師免許は持っているのですが、どうにもあやういことばかりする人がいました。

徐脈という不整脈があります。通常よりも脈がゆっくりになることで、全身の循環血液量が減り血行動態が不安定になったりします。この男性医師は徐脈の原因をろくに考えずにマニュアル通りに「徐脈=アトロピン」と考え、硫酸アトロピンを投与しようとしていました。

でも、この患者さんは高カリウム血症でもあって、徐脈の理由は血液中のカリウム値の高さだったのです。その場合はアトロピンを注入するのではなく血清カリウムの値を下げる処置をしないといけません。

つまり、彼はマニュアルに書いてあることだけを丸暗記していたのです。病態や薬物の作用機序を考えていないので、マニュアルに書いてある以外のことが起きると対処できないのです。さらに困ったことに、それを指摘されると「でもガイドライン上は徐脈にはアトロピンが第一選択ですよ」とガイドラインのアルゴリズム(図示された早見表のようなもの)を持ってくるのです。結果、他の医師のアドバイスにより、治療法が変更され、患者さんも容体がよくなりました。

マニュアルに書いてある以外の事が起こると何もできなかったり、ひどい場合には注意すると「そんなことマニュアルに書いてないので知りません」と上級医に向かって文句を言ったりする研修医もいます。こういうときは「まず頭を使いなさい」と言ってしまいます。

認定医試験に落ちる医師

鑑別診断という言葉をご存知でしょうか。患者さんの病態を正確に知るために、疑われる病気の可能性をすべて挙げていき、否定できる疾患を消していく、いわば裏取りのための診断です。

私が、ある貧血の患者さんの鑑別診断をしていたら、先輩の医師から「先生、そんなこといいから輸血すればいいんだよ」と言われたことがありました。貧血の原因を調べていた時に、です。驚きました。しかもそれほど緊急性のある貧血の値ではなかったので、大切なのは「なぜ貧血になったか」を認識することでした。この先輩もとても授業料の高い私大を卒業した医師でしたが、いくら先輩とはいえ信用できないと、警戒するようになりました。

また、別の私大卒の研修医で、自分では何一つ判断を下せない医師がいました。もちろん研修医ではあるのですが、発熱しただけなのに患者に何を処方したらよいかがわからず、「熱が出たんですけど何の薬を出せばいいですか?」と薬剤師に電話をかけまくるのです。スマホを肌身離さず持ち歩いてすぐに調べるので、上級医に「まさかお前はYahoo! 知恵袋とか調べてないだろうな?」と怒られていました。

他にも、内科医認定医試験といって、内科を専攻とした医師の第一関門である試験に落ちた人とも仕事を一緒にしたことがあります。先に出た鑑別診断を終わらせずにマニュアル通りの診断を下し、勝手に治療方針を決めて患者さんにお伝えしてしまうこともあり、私が不安に思っている医師でした。ちなみに認定医試験は合格率80~90%前後の試験です。当然それに落ちても医師免許はありますから、「医師」として仕事はできます