主要閣僚が続々辞任…イギリス政界にいま何が起きているのか

EU離脱を目前に噴出する不満
小林 恭子 プロフィール

次々と辞任、一体なぜ?

ジョンソン氏やデービス氏は、なぜ立て続けに辞めたのか。

きっかけは、6日に首相公式別荘「チェッカーズ」で閣僚らが合意した、ブレグジット交渉に向けた政府の方針だ。

国民投票から2年も経た今、ようやく交渉方針がまとまったというのは、「遅い」と思う人もいるだろう。

確かに時間がかかったといえる。

左がジョンソン氏、中央がデービス氏〔PHOTO〕gettyimages

2016年の国民投票では有権者は離脱支持(52%)と加盟維持(48%)と真っ二つに割れたが、保守党は「国民が決めた」ブレグジットを強硬に進めようとする党内右派と現状維持を望む残留派とのせめぎあいで時間を過ごしてしまったのである。

もともと、保守党にとって「欧州」は鬼門だった。

党員の中にEUは官僚主義の権化であり「英国から主権を奪う存在」としてみるグループがおり、「党内右派」、「EU懐疑派」としてくくられてきた。

こうした見方を支持する国民もいて、英国のEUからの脱退を目指す「英国独立党(UKIP)」が次第にその支持者を増やすようになった。

これに危機感を感じたのが、キャメロン前首相(在職2010~16年)。2014年の欧州議会選挙でUKIPが英国内の第1党となったことで、キャメロン氏は保守党に流れる票がUKIPに流れ、いずれ国政選挙でも支持者を奪われることを問題視するようになった。

党内右派・EU懐疑派を「黙らせる」ため、キャメロン氏はEUに残留するか離脱するかの国民投票の実施を宣言した。もちろん、残留派が勝つだろうという想定である。しかし、結果は僅差で離脱派が勝ち、キャメロン氏は辞任した。

その跡を継いだメイ首相は「ブレグジットはブレグジット(=離脱を必ず実行する)」と繰り返し、EUの関税同盟や単一市場から脱退する「ハード・ブレグジット(強硬なブレグジット)」の実現を誓った。

ところが、事態は思うように進まなかった。

 

ハード・ブレグジットが実行された場合に不利益が生じるとするビジネス界からの不評に加え、「北アイルランドの国境問題」など新たな問題を生み出した。

英領北アイルランドでは1970年代以降、カトリック系住民とプロテスタント系住民の争いが続いており、1998年の「ベルファスト合意」で和平が実現した。

この合意をもって、北アイルランドとアイルランド半島南部のアイルランド共和国の間の国境管理は撤廃された。

ハード・ブレグジットを実行するために税関や検問所を設置するなど「壁」を作れば、和平が崩れる可能性がある。

アイルランド政府もメイ政権も壁を作らないことを望んでいるが、それではEUに加盟し続けるアイルランドから北アイルランドに資本、サービス、人が流れてしまい、ブレグジットが形骸化する。

6日、12時間もの時間を費やしてチェッカーズで討議を行ったメイ首相は、ようやく閣僚全員の合意を取り付け、離脱の交渉方針を決定した。

方針は協調優先の「ソフト・ブレグジット(穏健な離脱)」路線を明確にした。「モノの自由貿易圏」を設置し、関税はEUと連携して現状に近い円滑な貿易を確保するようにする。ただし、EUが単一市場の原則とする「人の移動の自由」は制限する。

離脱支持に投票した国民がこだわった、人の移動の自由という点には制限がかかるものの、その内容は現状維持にかなり近いものになった。

ハード・ブレグジットを望むデービス氏やジョンソン氏にとっては、到底受け入れられないものだったが、6日の時点では、ひとまずは「合意」ということになった。