手術成功率99.7%の外科医が『ブラックペアン』監修で知ったこと

求められる「日本の医療ドラマ」って?
現代ビジネス編集部 プロフィール

医療監修で伝えたかった最新医療

医療ドラマには、「医療監修」というクレジットが入っている。医療機器の扱いや治療や手術シーンで違和感がないかを指導するのが主な役割だ。しかし、医療監修に厳密な決まりはなく、仕事内容もドラマによってさまざまだという。

 

『ブラックペアン』で手術支援ロボットの医療監修を担当した『ニューハート・ワタナベ国際病院』の渡邊剛医師。渡邊医師は、日本で初めて“完全内視鏡下での“オフポンプ手術”を成功させ、ロボット手術のパイオニア的存在。手術成功率は99.7%という世界一の記録を持つ心臓外科の名医だ。今回、実際に医療現場で使われている手術支援ロボットの「ダビンチ(ドラマ内では、ダーウィン)」が日本で初めてドラマで使用されるということで、渡邊医師に医療監修のオファーがかかったという。

世界で賞賛される心臓外科医の渡邊剛医師 撮影/DAA(アンチエイジング医師団)

「私は5話の手術支援ロボットが登場するところから医療監修を行いました。ロボット手術というとボタンひとつでオートマティックにやってくれる機械と思われがちですが、実際にはかなりトレーニングが必要です。それをスムーズに動かすシーンを撮影するために、アドバイスやサポートを行いました」(渡邊医師)

手術依頼も多く、多忙な渡邊医師が、医療監修の依頼を受けたのには、ある理由があったという。

「私が初めて『ダビンチ』で手術を行ったのは2005年。冠動脈バイパス手術を日本で初めて導入し成功させました。そこから経験を重ね、今では年間約40件、過去の手術数を合わせると460件を越えるロボット手術を行っています。

ですが、心臓外科のロボット手術はまだまだ一般には知られていません。実際には、日本はアメリカに次いで、2位のダビンチ導入率も誇っています。さらに、今年の4月1日から、心臓弁膜症に対してのロボット手術が保険適用になりました。保険適用になれば、手術費も高額ではなくなり、多くの人が受けられる形になります。

ドラマでも使用された手術支援ロボットの『ダビンチ』撮影/DAAアンチエイジング医師団)

ドラマで初めて本物のロボットが使用されるならば、身近になったロボット医療をドラマを通して、正しく知ってほしいという思いもありました。」(渡邊医師)

“人間かロボットか”の対立抗争は古い

ただ、実際にドラマとして映像化されたものを観ると、ロボット手術が正しく伝わるか不安になる面も多かったという。

「私の監修は5話目からでしたが、治験コーディネーターの問題が2話で発生しました。正直、こちらが監修したこともきちんと描かれているか、と心配になりました。

特に、気になったのは、“人間か、ロボットか”といった医師の手による手術とロボット手術が対立構造です。実際の現場では、こういった対立構図はありません。フィクションとしては、演出の材料になるのかもしれませんが、こういう描かれ方をするとロボット手術は人よりも危ないと思われる危険がありますからね。

実際には、我々は“人間か、ロボットか”という考え方はしません。心臓外科のロボット手術は、傷が小さく済むという最大のメリットがあります。昔ながらの大きく胸を縦に開く正中切開の場合は、胸骨を切って行います。そのため、出血も多く、胸骨感染のリスクも高まります。そういったリスクを減らすために、切開部が小さい小切開手術なども出てきましたが、ロボット手術はそれよりも傷口が小さい。4つ小さな傷口を開けるだけなので、痛みも少なく、リハビリも早期に始められます。

心臓手術は、心理的にも体力的にも患者への負担が大きかったのですが、ロボット手術の登場で、その認識は変わりつつあります。

さらに、ロボット手術といっても、AIが自動で作業するわけではありません。コックピットのようなブースに入り、細かく動かすのは心臓外科医の仕事。簡単にいうと高度なF1マシンのようなものです。普通車よりもF1マシンは、高速でパワーも出るけれど、それを乗りこなすには、特別な訓練と技術が必要です。ロボット手術もそれと同じ。緻密な作業ができるロボットならではの技術と人間の医師の経験と技術が協力し合って、最先端の医療として確立しているのです。

渡邊医師のクリニックで行われたロケの模様。撮影/DAA(アンチエイジング医師団)

ですから、ロボット手術に向く症例であれば、積極的に導入するのが今の流れになってきています。ドラマ中で描かれていた人間対機械という対立の概念は、かなり前の古臭い概念だな、と正直思いました。脚本に指摘を入れましたが、医療監修がストーリーを作るわけでないので、指摘だけに終わったのが残念でしたね。

でも、最終的に、機械を信じていなかった主人公が、ロボット手術を成功させる場面があり、少し報われた気持ちがしましたね(笑)」(渡邊医師)