最速の「クロール」泳法が見つかった! ロボットに泳がせてみたら…

S字かI字か、論争に決着
東京工業大学 プロフィール
水泳ロボット実際の水泳選手の身体形状を詳細にコピーしたSWUMANOIDは、全身の関節が動いてリアルな泳ぎを再現!

それによると「S字」はより少ないパワーで推進力が得られるため、効率が重要になる400m以上の中長距離種目に有利だが、効率より絶対的なスピードが求められる50~100mの短距離種目では直線的に水をかく「I字」が有利になる。

この違いは、それぞれの泳法で水をかく手の周囲に発生する渦からも裏付けられるという。

「S字」の場合は、掌を返した時に発生する渦が瞬間的に大きな揚力(浮き上がる力)となっていることがわかった。

一方、「I字」の場合、掌の両面で発生する渦が抗力(進む力)を生んでいる。

……こうした渦の発生がクロールの推進力メカニズムに大きな影響を及ぼしているという事実は、今回世界で初めて明らかにされたことだ。

今回の結論は、最速を目指すスイマーは「S字」か「I字」かという二者択一ではなく、レースの距離やスイマーの体格・筋力に応じてそれぞれの泳法を使い分けるべきことを示唆している。

「人間の水泳運動は、非定常でたいへん複雑な流体現象ですから、まだまだわからないことが多い。メカニズムのさらなる解明が必要です。今後は、体格、筋力、水泳技術などの個人差を考慮した泳法の研究に取り組むことになるでしょう」

泳ぎのシミュレーションと泳ぐヒューマノイド

水泳のエキスパートが肌身で感じる“感覚”を、実験やシミュレーションで得られる“データ”で誰もが納得する原理やメカニズムとして明らかにしたい。それが中島教授の水泳の研究に対するモチベーションだという。

「従来から、手だけなど、部分的な研究はありましたが、全身の研究は初めて。これまで誰も取り組んでいない分野だからこそ、それだけ苦労はありますが面白い。

ただ私自身は特に優れたスイマーではありませんので、水泳の研究に取り組み始めた当初から体育系の研究者と一緒にやりたいと思っていました」

そのため中島教授は、日本機械学会だけでなく日本水泳・水中運動学会などに所属し、水泳競技の専門家たちとの交流を深めた。

共同研究者の筑波大学・高木教授も、学生時代に水球選手として活躍し、現在は筑波大学水泳部水球部門監督を務め、男子日本代表チーム監督の実績を持つ泳ぎのエキスパート。

研ぎ澄まされた水泳の感覚を生かして、水泳や水球競技に関わるバイオメカニクスや流体力学分野の実践的な研究を手がけており、まさにこの共同研究にとっての力強いストロークの役割を果たしたと言えるだろう。

そしてその力強いストロークを補強しつつ、安定したフォームで研究のゴールに導いたのが、中島研究室が長年にわたって技術を磨き、進化させてきたシミュレーションモデルと水泳ロボットだった。