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最速の「クロール」泳法が見つかった! ロボットに泳がせてみたら…

S字かI字か、論争に決着

2020年に開催される東京五輪で日本勢のメダルが期待される競技の1つに水泳がある。なかでもクロールで戦う競泳自由形は花形種目といえるだろう。

そして、「クロールは、どのような泳法が最速なのか」という議論がかねてから重ねられていた。

その議論への1つの解となる重要な研究を担っているのが、東京工業大学の中島求研究室である。

東京工業大学 中島求 工学院 教授中島求(Motomu Nakashima)
東京工業大学工学院 教授 システム制御系システム制御コース
1990年、東京工業大学工学部機械工学科卒業。1995年、同大学院理工学研究科機械工学専攻博士後期課程修了。同年、博士(工学)号取得。東京工業大学工学部助手、米国モントレー海軍大学院客員研究員、東京工業大学大学院情報理工学研究科助教授を経て現職。 研究室はこちら 研究者情報はこちら

東京工業大学発行「リアルを伝える情報誌TechTech~テクテク~ No.30」より

東京工業大学発行「リアルを伝える情報誌TechTech~テクテク~ No.30」

速いストロークはS字か? I字か?

競泳の自由形では、選手はほぼ例外なくクロールで泳ぐ。クロールは現在もっともスピードが出る泳法と考えられているからだ。

一方で学校体育やスイミングスクールでも採用されている、私たちにもっとも身近な泳法でもある。

しかし本気でスピードを追求してクロールの練習をすると、これが一筋縄ではいかない。一流の水泳選手とビギナーのクロールを映像で比較してみると、その違いは一目瞭然だ。特に「ストローク」と呼ばれる左右の腕で交互に水をかく動作の滑らかさには格段の差がある。

このストロークと両脚のキック(バタ足)を組み合わせて泳ぐのがクロールの基本だ。

スピードに関しては、主にストロークによって決まるとされている。そしてクロールのストロークには大きく分類して「S字ストローク」と「I字ストローク」の2種類がある。

「I字ストローク」は水中で直線的に水をかく動作。かつて競泳のクロールと言えばこのスタイルが主流だった。

その常識が覆されたのが1972年に西ドイツ(現ドイツ)で開催されたミュンヘン五輪だった。米国代表のマーク・スピッツ選手が世界新記録を連発し、自由形とバタフライの7種目で金メダルを獲得する(当時、獲得数オリンピック記録)。

「水の申し子」とも呼ばれたこのスピッツ選手のクロール泳法が、身体の下でS字を描くように水をかく「S字ストローク」で、このあと競泳界はすっかり「S字ストローク」に塗り替えられていく。

ストローク

再び常識を覆したのが、2000年のシドニー・オリンピック(豪州)と2004年のアテネ・オリンピック(ギリシャ)で多くの金メダルを獲得したオーストラリアのイアン・ソープ選手だった。

ソープ選手のストロークはストレートな「I字」で、彼の活躍により「S字か? I字か?」という論争が再燃することになった。

「どちらが速く泳げるのか…そんな論争とは別に、私は長らく力学的なアプローチで泳ぎのメカニズムを研究してきました」と語る中島求教授。

「クロール自体、現在のスタイルになったのはたかだか100年前に過ぎません。泳法としてまだ完成していないから、論争も起きるのでしょう。

私は腕が水をどうやってかき、スイマーの身体をどのように水が流れていくかを研究していけば、最速の泳法が見つかるのでは? と考えていました」

違いは手の周囲に発生する“渦”

そこで中島教授は、筑波大学の高木英樹教授ら国内外5人の研究者との共同研究に参加し、最先端の流体計測解析技術や“泳ぐロボット”を使ったシミュレーション研究などにより最速のクロール泳法への多角的なアプローチを試みた。

2016年1月、待望の研究結果が発表された。