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ルイ・ヴィトンが史上初の「アフリカ系デザイナー」を大抜擢した理由

ラグジュアリービジネスの変革が始まる

歴史的瞬間

世界最大のラグジュアリーブランドとして知られる、ルイ・ヴィトン。その新たなメンズデザイナー(役職名はアーティスティック・ディレクター)に、今季からヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)が起用され、業界やファンを驚かせている。

というのも、アブローはアフリカ系であるうえ、もともとファッションデザイナーでないという特異な人材なのだ。これまでルイ・ヴィトンに限らず、ラグジュアリーブランドにおいて、アジア系やアフリカ系、いわゆる「有色人種」のデザイナー、クリエイティブ・ディレクターはほとんどいなかった。

アブローと、彼の友人でありビジネスパートナーでもあるラッパーのカニエ・ウエストが、6月21日に行われた初のショーで涙ながらに抱き合う姿は、「アフリカ系がラグジュアリーブランドのトップに立った歴史的瞬間」の象徴として、世界中で話題となった。

ただ、彼の起用がルイ・ヴィトンというブランドにとって吉と出るか凶と出るかは未知数であり、また別の問題だ。本稿でその是非を考察してみたい。

 

「白人優位」の業界で

1980年、米イリノイ州でガーナ系移民の子として生まれたアブローは、大学では土木工学を学び、イリノイ工科大学で建築学修士を取得している。

その後、DJやシカゴのコンセプトストア「RSVPギャラリー」の運営などを経て、2013年にストリートファッションブランド「オフ-ホワイト(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」を設立。米国のセレブリティがこぞって彼のブランドを身につけたこともあり、ここ数年、世界中で急速にファンを獲得しつつあった。

そこに、老舗中の老舗であるルイ・ヴィトンが白羽の矢を立てた形だ。

ルイ・ヴィトンと仕事もしている美術家の村上隆(左)とアブロー(Photo by gettyimages)

ファッション業界は、長らく「白人優位」が強固な世界である。著名なアジア系のファッションデザイナーも、これまで数えるほどしか存在しなかった。日本人で「メゾン」と呼べる大きなブランドのデザイナーを務めた人物は、「ケンゾー」創設者の高田賢三しかいない。

才能という意味では、現在「ヨウジヤマモト」を率いる山本耀司には可能性があったし、事実、ディオールのデザイナーの下馬評に上ったこともあったが、幻に終わった。アフリカ系のデザイナーにいたっては、2018年まで皆無だったのだ。

ダイバーシティが賞賛される時代である。女性に関しては、ファッション業界では女性デザイナーが既に数多く活躍している。また、LGBTにも寛容で、当事者がたくさんいる。しかし、こと人種に関してはユダヤ系を例外として、きわめて敷居が高かったのが実情だ。

アブローの実力に関しては後ほど検討するが、まずルイ・ヴィトンほどの保守的イメージを持つブランドが、率先してアフリカ系デザイナーを起用しただけでも画期的なことである。

世の中の趨勢として、ルイ・ヴィトンが採用しなくても、おそらく数年以内に、どこか他のブランドでアフリカ系デザイナーが誕生するのは確実であった。また、アブローをデザイナーに迎えたいというブランドも、遅かれ早かれ出てきたはずだ。

ルイ・ヴィトンの経営陣には「二番煎じでは意味がない」「他に取られる前に囲い込みたい」という判断もあったと考えられる。その点は慧眼といっていいだろう。