米国・シリコンバレーでは、上司と部下とのコミュニケーションで「1on1ミーティング」という手法が当たり前になっている。上司と部下が週に一回、30分~1時間程度「必ず」一対一の面談を行うのだ。
 

時代の最先端を行くシリコンバレーのIT企業が、あえて昔ながらのフェイストゥフェイスのコミュニケーションを大切にするのはなぜだろう? そこには企業にとって、そして社員にとってのたしかなメリットが存在する。
本稿では、企業が1on1ミーティングを導入することで上司と部下が得られるメリットを、代表的な5つに絞り、『シリコンバレー式 最強の育て方』の著書もある、組織人事コンサルタントの世古詞一氏が解説する。

メリット1 上司と部下に固い信頼関係が生まれる

改めまして、企業が「1on1ミーティング」を導入するメリットを5つ挙げ、解説していきます。

人と人が信頼関係をつくるためには、お互いの歴史や考え方を知って共感していくことです。 そのためにまずは1on1の回数を増やしていくこと自体が、信頼関係づくりに寄与します。心理学ではこれを「単純接触効果」と言い、人は何かしらの対象物と繰り返し接することで、警戒心が薄れて好意度が増していくという効果があるのです。

この信頼関係はすべての土台になります。だから私は、まずは「1on1ミーティングで 話す頻度を増やしましょう」と言います。すると「でも、いつも部下と十分話をして 知っているので、今さら話すこともないですよ」、そう言われるマネジャーがいらっ しゃいます。果たして本当に部下のことを十分知っているのでしょうか?

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たとえば、「うちのチームは皆仲が良くて……」そう言っているメンバーの、「中学、高校、大学で熱中していたこと」をどれだけの上司が知っているでしょうか? 1on1を始めたマネジャーがよく言う感想が、「意外と部下のことを知らないんだな、というのがわかりました」というものです。

1on1ミーティングを行うことで、「相手をもっと知ろう」という意識や姿勢が高まります。なぜなら、知れば知るほど知らないことが増えることに気がつくからです。 逆に知っていると思っているうちは部下に何も「聞こう」とせず「知ろう」ともしません。「思っていたより部下のことを知らないな」というところに立てたマネジャーだけがとても謙虚に1on1を積み重ねて、やがて揺るぎのない信頼関係を部下との間につくり上げていくのです。

そして、そんな信頼関係が積み重なった企業は、会社の業績が悪くなったときに一致団結をして難局を乗り切っています。一時的にでも結果が出ているときは組織の問題が表に出なかった企業も、業績が悪くなった途端に組織が崩壊して、さらに業績が悪くなるという事例は枚挙に暇がありません。逆境に耐える真に強い企業を支える土台には、組織の中の信頼関係が不可欠です。そしてそれをつくる大きな役割を1on 1ミーティングは担っていくのです。

メリット2 やる気のなかった部下が自発的に働く

人が自分からやる気を出して何かを行うためにはどうすればよいのでしょうか? 「内発的動機づけ」研究の第一人者であるロチェスター大学教授のエドワード・デシ氏は、人がやる気になるためには3つの基本的欲求が満たされることが必要と述べています。

1つ目は関係性への欲求、2つ目は有能さへの欲求、そして3つ目は自律性 への欲求です。そして実は、このやる気になるための3つの欲求は1on1ミーティングの場ですべて満たせるのです。

まず1つ目の関係性への欲求とは、相手に受け入れられていると感じていることです。例えば部下の関心のあることを聞いたり、体調を気にかけたり、言葉や質問を投げかけることです。これらのことは実は、1on1のコミュニケーションで行うことそのままです。

次に2つ目の有能さへの欲求とは、「自分にはできる」という自己効力感を持てることです。これを部下に持たせるための働きかけとしては、例えば、部下への期待を伝えたり、感謝の言葉を述べたり、できていることに承認を与えることです。部下をできる人として接することで部下の自己効力感が高まります。これも1on1で上司が実践する欠かせない要素です。

最後、3つ目の自律性への欲求とは、物事を自分で決めた実感を持って取り組むこと です。押し付けられて、やらなければならないと思って取り組むのではなく、視点を 変えて当事者意識を持って取り組める状態です。これも1on1ミーティングの場で行われます。

例えば、OJT業務にやる気を下げている部下Aさんがいました。彼女は人に教える仕事に対して無駄を感じていました。その時間があったら自分の成果(=数字)を出したいのです。そんなAさんに上司は1on1の場でこう言います。

上司 「Aさんの今の業務(数字を出すこと)が自分の将来像の『一部』だとすると、
他の部分には何があるのだろうか?」
Aさん「そうですね。今扱ってる商材だけではなくて、どんな商材でもあるいはどん
な状況でも成果を出せるようになることです」
上司  「いいですね。そのこととOJT業務を行うことは繋がる部分はありそうです
か?」
Aさん「そうですね、OJT業務を追加でも行う状況で自分の成果を出したら、将来
の自分へ近づく感じがして自信が持てそうです」

このようなやり取りの中で、今行っている業務が自分を成長させてくれる必要な業
務という認識に変化することがあります。こういった部下の認識の変化に立ち会うと いうことを、あなたがマネジャーだったら一度は経験したことがあるのではないで しょうか。