画/おおさわゆう

新人看護師が必ずミスする、医療世界の「誤解ワード」

覆面ドクターのないしょ話 第24回
「ゴチ」と言われたら、普通は「ごちそうになります」という意味だと解釈しますよね。でも、出版業界では、「ゴチック(あるいはゴシック)体」を意味します。「雨だれ」は、庇からポツポツ垂れる水滴ではなく、「!」のこと、「耳だれ」は、耳からじくじく出てくる膿ではなく、「?」のことです。門外漢にとっては意味不明は業界用語ですが、医療の世界にもさまざまな業界用語があるそうで、今回は、次郎先生が遭遇した、業界用語をめぐるかわいらしい勘違いエピソードを紹介してくれます。

点滴に使う「おかず」とは?

昼食を食べに職員食堂へ行った。その日の料理はビビンバ、餃子、野菜のおひたしとヨーグルトだった。私は餃子のタレを作ろうと思い、小皿に醤油とお酢を入れようとした。お酢の入ったボトルはポンプ式のような形状をしており、頭の部分には「おす」と書かれていた。

 

「ここを押せばお酢がピュッと出るんだな」

と思って押した。だが出ない、いや押せない。「おかしいなぁ」と思いながらさらに強く押すのだがびくともしない。

何度もトライしていると、厨房のおばちゃんが首を伸ばして言った。

「先生、それ『押す』じゃなくて『お酢』なのよ。普通に傾ければ出るわよ」

……読み間違いだったのか、トホホ。

ぶつぶつ独り言を言っていたら、私はあることを思い出した。その前に補足説明を。

ここにミネラルウォーターが入った500mlのペットボトルがあるとする。貼り紙もカバーもなく、ただ透明な水の入った裸のプラスチック・ボトルがあると思っていただきたい。

私が、このボトルに食塩を混ぜ、マジックで「食塩小さじ1杯」と手書きしたとする。これを見た人は、

「あ~、この水の中には塩分が入っているんだなぁ」

とイメージするだろう。

では、食塩ではなく、「ささきじろう」と書いてあったらどうだろう?これを見た人は、

「あ~、次郎ちゃんのボトルなんだな」

と人の名前を思い浮かべるはずである。

実は、昔の点滴も似たようなものだった。現在では、パソコン入力してプリントされたシールが貼られるが、昔は手書きだった。

まず、透明な点滴用の水分が入ったボトルに、患者さんの名前をマジックで書く(例:佐々木次郎様)。

入院中、何時間もかかる点滴がいやで、こっそり点滴が落ちるスピードを早めたことがありました(photo by istock)

次に、医師が指示した薬を注入したら、何がボトルに入っているのか、患者名の下にマジックで追加記載していく(例:ビタミンC(100 mg)1A、※A=アンプル)。

点滴というのは水分補給が第一の目的で、そこに作用させたい薬を混ぜて作る。薬を混ぜる前の点滴用の水分を「本体」という。この「本体」に調味料のように医師が混ぜるべき薬の指示を出す。これらの薬をこの業界では「おかず」と呼んでいる。

「点滴の準備をしてください」

と医者が言うと、看護師はこう尋ねる。

「『おかず』はどうしますか?」

確認の後、指示された痰を切る薬や止血剤、気管支拡張薬などを本体に混ぜる。

点滴は病院のいたることころで使われている。手術室は時間当たりの点滴の消費量が最も多いところだろう。手術の際は、水分補給が重要なので、「おかず」は用いないことが多い。ただし、「おかず」を入れた場合は、前述したように一つ一つ書いていく。

全く「おかず」が入っていない水分だけの点滴本体を、この業界では「たんみ」と呼んでいる。漢字では「単身」「単味」と書くらしいのだが、定かではない。指示を出すと、看護師は次のように再確認する。

「『おかず』なしの『たんみ』でいいんですね?」