「自由遊び」と「放置・放任」の違い

保育の中では「一斉保育」といって、子どもたちがみんなで一緒に同じ活動をする時間と、「自由保育」「自由遊び」などといって、子どもたちが自分の好きな遊びをして探求活動をしていく時間とがあります。子どもの「主体性」が大切とうたわれる時代にあっては、「自由保育が良い」と考えられることが多くなってきていますが、この「自由保育」がときには「放置」「放任」になってしまっている園もあります。

2005年8月10日、埼玉県上尾市にある市立上尾保育所で、4歳の男の子がかくれんぼの際に薄暗くて見通しの悪い廊下の隅に置いてあった本棚の下の引き戸の中に入り込み、誰にも気づかれないで熱中症による心肺停止で亡くなりました。上尾市では遺族の求めに応じて第三者による事故調査委員会を発足させ、『上尾保育所事故調査委員会報告書』を公表しました。

上尾保育所事故調査委員会報告書。亡くなった4歳の園児が見当たらないことが11時半ごろ昼食時に判明したが、10時半以降この園児の存在を把握していた職員がおらず、捜索には時間がかかった。園の内外を探し、12時半ごろに園内の本棚から発見されたときは、身体がとても熱くなっており、すぐに病院に搬送。13時50分に病院で死亡が確認されたという

そこには、子どもたちが「自由保育」という名の「放置」「放任」の保育をされている中で、行くあてもなくさまよっている姿が報告されていました。

保育所では「子どもの主体性に任せる自由な保育」を標榜していました。しかし実際には「保育士に園内での人数確認や子どもの動静を把握する習慣が身についていない」「職員全員で児童全員を見ようという取り組みができていない」など、基本的なことが何もできていなかったことが指摘され、「防ぎようもなく起こった事故ではない」と結論付けられています。「自由保育」と言いながら、その実、行われていたのは「放置」「放任」であったことがわかっています。

保育士の見守りがあるなかで自由に遊ばせる「自由保育」と、しっかり見ていない「放置」はまったく別だ Photo by iStock

さらに、この報告書のほか、民事裁判での膨大な資料、そして取材によって構成したルポルタージュである拙著『死を招いた保育〜ルポルタージュ上尾保育所事件の真相』には、保育士同士の関係性が悪く、担任と副担任が口をきかないような状態だったこと、事故があったクラスにまるで「モンスターペアレント」のような保護者がいて、保育士達が担任になりたがらなかったこと、「モンスターペアレント」のせいで保護者同士の関係性が極めて悪かったこと、同じように子どもたちの関係性が悪かったことなどについても記しています。

つまり、子どもを放置・放任していてきちんと動静を把握していなかったことのほかに、園内での大人同士の関係が悪かったことも、この事故の要因のひとつにあげられます。

人間同士のつながりが、事故を防ぐ園を作る 

「保育園には、ただ預けられれば良い」とばかりに、保護者同士の関わりを持とうとせず、ときには保護者同士が挨拶もしないような殺伐とした関係の園も少なくないようです。処遇や人間関係の悪さなどから保育士が次々と辞める園では、保育士同士の関係も殺伐としているかもしれません。

保育は人間が行うものなので、いくらマニュアルを作っても、機械のように完全に事故を防げるものではありません。むしろ「人間」という不安定でファジーな存在を、お互いの結びつきによって確実なものにしていくことの方が安全につながるのです。

保育の現場では、たった1人の先生が致命的なミスをおかしたので子どもが亡くなったり大きなケガをした、というようなことは少なく、多くの人のミスが重なった場合に起こることの方が大きいのです。誰かがミスをしても、他の人が気付いて食い止められるような環境を、お互いに作っておくこと。それが子どもの生命を守るために大切です。保護者もその一員として、動かなければならないのです。

冒頭で挙げたように「園の中を見せようとしない」「午睡を真っ暗な部屋で行う」「きちんと嚥下できるような食環境を作っていない」「水遊びに監視がいない」というチェックをすることは安全な園を選ぶうえでとても大切です。ただ、入った後に「自分たちが一緒に安全な園を作る」という意識も必要なのだといえるでしょう。


ジャーナリストとして「保育」の問題について長らく取材・執筆し、現在は保育学の研究者でもある猪熊さんと、弁護士・社会福祉士である寺町東子さんとは、2001年以来ずっと保育事故を無くすための活動を続けてきた。現在では二人ともが保育士資格も取得し、「一般社団法人子ども安全計画研究所代表」を設立して、子どもにとってより良い保育のあり方を園や保護者と共に考える活動を続けている。5月に共著として出版した『子どもがすくすく育つ幼稚園・保育園』(内外出版社)には、約20年間保育に関わってきた経験を元に、幼稚園・保育園の選び方から、園とのつきあい方まで、子どもが入園する前に知っておきたい「乳幼児について本当に必要なこと」について書かれている。