Photo by iStock

現場主義のキャスターが世界30ヵ国で目撃した「ニュースの舞台裏」

大越健介さんにインタビュー

埋もれてしまうのはもったいない

―大越健介さんはNHKBS1の人気番組『激動の世界をゆく』のキャスターとして、世界約30もの国・地域に足を運び、徹底した現場主義の取材から国や人を分かつ「壁」を描き出しました。

テレビ番組を著書『「激動の世界をゆく」大越健介取材ノート』という形で書籍化しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

あの番組は「発見第一主義」で作っていました。事前に大まかな取材計画を立ててはいましたが、現場での発見を優先して取り上げるようにしていたので、取材の過程で気づいたことを日誌にまとめてスタッフの間で共有していたんです。

そして自分が番組を去る際に改めて日誌を読み返してみたところ、映像化が難しかった自分自身の思いや気づきがたくさんあった。そのまま埋もれさせるのはもったいないので、本という形に仕立て直そうと考えました。

―北朝鮮を取り上げた章では、北朝鮮という国を「記号」で捉えるのではなく、その地で生きる人々に肉薄しています。

 

取材を重ねるなかで、「国際社会は」、「日米同盟は」とか大きな言葉で語るのはかえって楽だと思ったんです。

ロシアのウラジオストクで、北朝鮮の出稼ぎ労働者を取材していたとき、僕は彼らが質問に応じないだろうと予想しつつもマイクを向け、やはり答えはない、という予定調和のような取材をしてしまった。

その時に、僕は彼らのことを「北朝鮮という不思議な国に抑圧された人々」という記号で見ていたことに気づいたんです。

一方で、彼らは僕のことを「興味本位の日本のマスコミ」という記号で見ていたと思う。日朝間には様々な問題がありますが、まずはお互いを記号として見てしまう関係性から変えていかなければいけないと思いました。

―アメリカとメキシコの国境を取り上げた章では、国境という「壁」に分断された親子の姿が印象的です。

ティファナ(Photo by gettyiamges)

米・サンディエゴに隣接するメキシコのティファナという町で、ホセという歌手に会いました。

彼は若いころ米国で活動していましたが、不法移民ということでメキシコに強制送還された。米国に残っていた娘に孫が生まれたことを契機に、親子は国境の壁越しに再会することになったんです。

ホセは国境を分かつフェンスの細かい網の目に小指を差し込み、壁の向こうで娘に抱かれている孫に触れようとしていた。その光景を見ているうちに、「国境なんて人間が勝手に作ったものだけれど、これほど残酷なものもない」と現実の厳しさを痛感しました。