このところ、中国の株価と通貨(人民元)の下落が目立つ。中国の代表的な株価インデックスである上海総合指数は年初から15%以上も下げ、特に最近1ヵ月で9.5%近い下落となっている(図表1)。
人民元も4月半ばの1ドル=約6.27元から6.64元まで下落している(約6%の下落)。
7月3日に中国通貨当局は、人民元買い米ドル売り介入を実施した模様で、一時、人民元安は一服したようにもみえたが、その後も人民元安は沈静化の兆しをみせていない。
また、今回は上海株式市場の大幅調整を伴っているため、多くの投資家は2015年6月頃に発生した中国株と人民元の大幅下落を連想し、マーケットのリスクオフ局面入りへの警戒感を高めている。
中国人民元は、対ドルで4月半ば頃から下落に転じたが、昨年(2017年)はほぼ一方的に上昇した。この人民元の対ドルの為替レートの動きをみると、確かに11月までは中国の通貨当局が短期金融市場への資金供給を絞り込んだことによる市場短期金利(Shibor)の上昇と整合的であった。だが、昨年12月半ばから今年の4月半ばまでの4ヵ月間については、市場短期金利の動きとは全く逆の動きをしていた。
図表2は、米中の市場短期金利差(米国はドルLibor、中国はShiborのそれぞれ3ヵ月物金利の差をとっている)と人民元の対ドルレートの推移を示したものである。
2012年以降、人民元レートは米中の市場短期金利差の変動から約3ヵ月のタイムラグをもって推移していることがわかる。この関係をみると、12月半ば以降、人民元レートは米中の市場短期金利差の動きとは逆方向に動くようになったことがわかる。
米国で利上げが段階的に実施される状況下では、相対的にドルLiborレートの上昇幅が大きいため、図表2では中国マイナス米国となっている米中金利差は縮小し、これが将来の人民元安ドル高要因になるはずであった。ところが、実際には全く逆方向のドル安人民元高となっていたわけである。
このように、時系列でみれば、現在は、昨年12月半ばから今年4月半ばまでの「非整合的な状況」が、ここ1ヵ月程度の短期間で急速に修正されているという解釈が成り立つのではなかろうか。そして、この金利差からみた人民元レートは1ドル=6.7元程度となる。
他の指標からも同様の解釈が成り立つ。例えば、人民元の対ドルレートと米中のマネタリーベース比率の関係をみた「ソロスチャート」をみても、現状は、昨年12月からの「説明不能」な人民元高の修正局面であると解釈され、人民元レートはだいたい1ドル=6.7元程度が妥当という計算となる(図表3)。
実は同様の動きは他の新興国でもみられる。特にアジアの新興国では、このところ、軒並み株安・通貨安が進行している。韓国、台湾、シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナムなどがその好例である。
これらの国でも昨年来、米国で利上げが粛々と進行する中、金利差等の要因で先行きのドル高現地通貨安が見込まれていたものの、実際はこれに反し、現地通貨高と株高が並存する状況が続いていた。中国同様、今年初めからこれが修正される動きが始まり、ここにきて、調整幅が大きくなっている状況である。
以上より、株価や為替レートが異常な動きだったのは、むしろ昨年12月半ばから今年4月半ばであり、これが、短期間で「ありうべき状態」に戻ったというのが筆者の考えである。従って、現在のマーケットはまだリスクオフ局面への入り口には至っていないと考える。