「牛の霜降り具合」を生きたまま10秒で計測する核磁気共鳴装置!

マグロのトロも計測できます
産業技術総合研究所 プロフィール

わずか10秒で高精度の計測が完了

トンネルのコンクリートにしても牛やマグロにしても、測るべき箇所は表面より数cm以上奥にある。

そこを計測するために試行錯誤を繰り返し、2015年、直径30cmの円柱形の永久磁石の端面に高周波コイルを載せ、コイルの上部空間が開放された形状のプロトタイプをつくりあげた。表面から3cmの深さにある1.9×1.9×1.6cmの直方体が計測範囲だ。

この探査深度3cmは、生きた牛の僧帽筋やサーロインの位置をほぼカバーしている。

これを用いて、牛肉の僧帽筋、サーロイン、テンダーロイン、赤身、脂肪の塊など、計17個の牛肉ブロック試料を計測。測定時間は1試料あたりわずか10秒ほど。脂肪組織の中の脂肪分子と筋肉組織の中の水分子を水素原子核の緩和時間の長短で識別し、そこから牛肉中の脂肪と筋肉(赤身)の含有量をそれぞれわずかな誤差で推定することができた。

「10秒というのがポイントです。これほど短時間で計測が終わるのであれば、長くはじっとしていられない家畜でも、鎮静剤や麻酔薬を注射せずとも計測することができるでしょう」

片側開放型NMR装置
片側開放型NMR装置
生きたままの牛にこの片側開放型NMRを当てると、体表から3cmほど奥にある肉の霜降り状態を、短時間かつ高い精度で計測できる。
Courtesy of AIST

しかし実用性の面で問題もあった。直径30cmの大型磁石は、重量が43kgもあるのだ。医療用MRIに比べればはるかに軽いとはいえ、中島がつくりたいものは、もっと気軽にあちこちに運んでいける装置だ。

そのためにはより小型軽量化を進める必要があるが、その一方で、強くて均一な磁場も得なければならない。両立させることが難しい二つの機能をもたせるため、中島は実験を重ねていった。

「コイルをどのようなサイズや形状にするのか、磁石のサイズや厚さ、磁場の方向はどうするのか。そしてそれらをどう組み合わせれば、よい結果が出るか。組み合わせをシミュレーションしては試し、さらにサイズを変えては試しながら、最適なものを探していきました」

そういった磁石サイズやコイル配置の工夫を重ね、また、強い磁場をつくれるネオジム磁石を導入したことで、2017年、約15kgの磁石で求める精度や探査深度を実現する装置が完成した。ようやく、ニーズのある場所に運び、計測ができる非破壊計測装置が完成したのだ。

用途は「食」から「建物」まで

この装置を農業関連技術の展示会などで発表したところ、マスコミや企業の反応は大きく、日本人の食への関心の高さを実感したという。

とはいえ中島は、この装置を農業分野だけに限定するつもりはない。

「測る対象が液体・ゲル・ゴムなどであれば何であってもすべて同じ方法で計測できることが、この装置の大きな特徴です。

もともと想定していたトンネルなどの老朽化診断のほか、油汚染土壌の計測、歴史的建造物や仏像など文化財の非接触診断、ヒト用MRIに入りきらない象やキリンなどの大型動物の病気診断など、さまざまな用途に応用が可能だと考えています」

現在はトラックの振動の影響を受けにくい運搬用具を用意するなど、装置を安全に輸送して操作できる体制を整えているところだ。

牧場から牧場へ、そしてそこから市場やトンネルへというように、常にニーズのあるところに移動し、そこで計測しては次の現場に向かっていく。そのような使われ方を、中島は想定している。

「いろいろな用途が期待できる装置なので、橋渡し先としても計測器メーカーだけではなく、多様な分野の企業が候補になるでしょう。短時間で非破壊計測のできるこの装置を、ぜひ実用化につなげていきたいと思っています。非破壊検査を業務とされている会社の方、この装置で測ってみたい対象物がある方など、どうぞ気軽にご相談ください」

問い合わせ先:産総研 地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門