「牛の霜降り具合」を生きたまま10秒で計測する核磁気共鳴装置!

マグロのトロも計測できます
産業技術総合研究所 プロフィール

老朽化した建築物に限らず、打設したばかりのコンクリートの固化にともなう水分量減少のモニタリングにも、この技術は有効だと考えた。そこで中島は、表面から聴診器のようになぞることで物体内部の水分量を測れる装置を開発することにした。

「片側開放型NMR」という選択

中島が選んだNMR装置は「片側開放型(ユニラテラル)」という方式のものだ。

医療で使われているMRIは国内に数千台はあるが、それらは本質的には2つの磁石を用いる「バイラテラル」というタイプがほとんどで、強力で均一な磁場がつくれ、シグナルを高精度で得ることができる。しかし一方で、2つの磁石の間に入るサイズのものしか測定できないというデメリットもある。

土木用途であれば大きなものの非破壊・原位置測定が前提であるため、中島は片側を開放する方式を選択した。

片側開放型NMR装置の場合、バイラテラルの磁石の一方をなくし、残った磁石の表面近くに高周波コイルを近づける。コイルの前の空間は開放されており、試料はそのコイルの前に置くことになる。

試料のサイズに制限はないが、測定できる磁場は弱く不均一になりやすく、得られるシグナルも弱くなることが懸念された。そのため中島はまず、片側を開放してもシグナルがとれるかを調べることにした。

「最初に用いたのは直径10cm、重さ2kg程度の永久磁石です。シグナルはとれましたが、とても微弱で、しかも表面から数mmのところをとるのがやっとだったのです。

片側開放型NMR装置の宿命として外部ノイズに対しても『開放』的なため、ノイズも非常に大きく、得られる数値には大きなバラつきがありました。この点はノイズシールドを設けたことにより解決しましたが、いずれにしても、もっと深部まで測るために、より大きなシグナルを得られる大型磁石を用いることにしました」

生きたまま測れる「非破壊計測」

大きな磁石をと考え始めたその頃、中島は、大きな物体内部の非破壊計測の需要は、土木以外にももっとあるはずだと考えるようになっていた。

試料の切り取りが許されない大きな物体中の水と油の含有量を測る必要のあるものには何があるだろうか?

そこで思いついたのが農水産物、すなわち牛やマグロというわけだ。

「牛肉の霜降り状態を測ろうと着想したのはよかったのですが、そこからが大変でした。何しろ地球物理学出身の私は、牛についてなんの知識もありません。解剖学的な知識も肉の部位の名称も知りませんでした」

牛もマグロも測れる装置にできるだろうかと一から調べていくうちに、内部の脂肪量は外見からではプロでも簡単には判断できないということがわかった。

牛の肉質等級はロース芯の断面を見てから決めるし、マグロも切り落とした尾の脂ののり具合から価格を決めている。それが、非破壊計測装置なら切らずに計測ができる。これは大きなメリットではないか。

さらにこの装置を使えば、飼育中に霜降り状態が計測できる。農家は牛を育てるとき、餌の質などを経験から判断しているが、子牛の頃から定期的に測定をしてそれぞれの時点の霜降り度を知ることができれば、霜降り牛として育てる効果的な方法が科学的に裏付けられることになる。

「脂肪量はおいしさ、ひいては価格にもかかわってきますから、食品分野でのニーズはあると確信しました」