私たちが「クソどうでもいい仕事」に忙殺されてしまう意外な理由

何のための労働なのか
藤田 結子 プロフィール

書類のチェックで時間が過ぎる

たしかに、日本でも同じような話が聞かれる。

たとえば、都心で働く20代若手社員の鈴木大輔さん(仮名)のケース。鈴木さんは有名大企業の管理部門で働くエリートで、入社してすぐ年収500万円程度に達している。それなのに、毎日悶々と過ごしているという。なぜなら、自分の仕事が「意味がなくて耐えられない」からだ。

鈴木さんの担当業務は、書類を見てハンコがきちんと押されているか、内容に不備がないかをチェックすること。鈴木さんは、この仕事に意味があるのかと疑問に思わずにはいられない。

「1枚の書類に10個もハンコが押されているんですよ。くだらなすぎでしょう。内部統制にハンコが10個も要るわけはなくて、形骸化した儀式のようなものです。仕事で頭を使わなくて、逆に頭がおかしくなりそうなんです。ただ意味も無く時間が過ぎてしまって、これでいいのかと悩んでいます」

グレーバーがいうように、鈴木さんは書類まみれの仕事(3)を「くだらない」「意味が無い」といった言葉で形容していたのである。

グレーバーは、こういった「クソどうでもいい仕事」をしている人々は、自分たちの仕事が「無意味で」「くだらない」と思いながらもせっせと働き続けるという。

なぜなら、働くこと自体に道徳的な価値があり、規律を守って長時間働かない人間は価値がないと考えられているからだ。

このような考え方は支配階級にとってきわめて都合がいい。

 

本当に役に立つ仕事の賃金は低い

グレーバーはいう。

「企業は現実に何かを作り、運び、直し、維持する人々をリストラしてきました。一方で、多くの人たちが書類上では週に40~50時間働いていることになっていますが、実際に効率的に働いているのは15時間程度です。残りは自己啓発セミナーに出席したり、フェイスブックのプロフィールを更新したりと無駄に時間を過ごしています」

新刊書で彼は、典型的な「クソどうでもいい仕事」をあげている。

1つは受付係やドアマンなどの「太鼓持ち(Flunkies)」。自分が重要な人物だと思わせるために存在している職業だ。

もう1つはロビイストや企業弁護士、広報などの「雇われ暴力団員(Goons)」。雇用主のため、攻撃的に活動する職業である。

そのほかにも中間管理職などの「ムダな仕事製造係(Task Makers)」などがある。

そして、グレーバーは、本当に役に立つ仕事をしている人々が報われない社会になっているという。

「この社会は、本当に意味のある仕事をしている人が、怒りのはけ口になるような社会です。たとえば、看護師やゴミ収集者や機械工はいなくなってしまったらこまる職業です。

その一方で、プライベートエクイティのCEOやロビイストやPRリサーチャー、テレマーケティング担当者、法律コンサルタントなどの職業は消えてしまっても、われわれはたいしてこまらないでしょう。むしろ社会は良くなるかもしれません。

しかし医師のようなわずかな例外を除いて、意味のある仕事をしている人ほど賃金が低くなっています」

日本でも、保育士や介護士の平均年収は300万円代前半程度と低い。

保育士や介護士などの職業は、人間のケアをして命を預かる非常に意味のある仕事をしているのに、賃金が低く抑えられている。

一方、グレーバーが「消えてしまってもたいして困らない」という金融サービスや法律コンサルタントの職業の年収は1000万円を超える場合も少なくない。