楠 なぜビットコインを買わないかというと、持つと気になってしょうがなくなるからっていうのと、わからないものには投資しないということです。
——ということは、他のものはある程度わかるんですか?
楠 株にしたって何にしたって、ファンダメンタルズはあるわけですよね。
ファンダメンタルズというのは、事業や資産や受給——要するに実需要みたいなもののことだ。
確かにビットコインには、それでしか取引できないというものはない。最初に話に出た「シルクロード」などのダークウェブでは、怪しげなものを取引するために仮想通貨が流通していた……が、それは誰もが参加しているメインの経済ではない。
楠 ビットコインじゃなければできない取引が何かあればもうちょっと興味を持つけど……。純粋にみんな儲かると思って投資をしている。それはバブルだからやっぱり100万とか超えたところで、というか30万を超えたあたりから怖くてやめた人がいっぱいいると思いますよ。
知っている人ほど「買っておいたほうがいいよ」とは決して言わないものだと思います。
これは自分でも予測していた答えだったのだが、専門家に言われるとやはり目が覚める……。
では、ビットコインの未来には、どういうシナリオがありえるのだろう。ぼくの知っているビットコインの信奉者は将来、ビットコインが新しいお金になるからいま現金にする理由がない。だから、ずっと持っていると言っていたのだが——。
楠 そういう話はよく聞きます。
——短期的なお金もうけが目的でやっている人は、どっかで現金にしたり、別のものにしたり、見切りをつけたりするのかなと思うんですけど、それはどのへんでそうなるんでしょう?
楠 投機の人たちって値動きそのものがエンジンだから、値が動いているうちは興味がある。別に売りでも買いでも儲けることはできるから。価格が大きく動いていること自体が投機家にとっては価値なんです。逆に言えば、そういう人たちが来なくなるのは価値が安定したとき。値段が動かないと、売っても買っても儲からないから。
——あ、それはすごくわかります。ぼく、VALUもやってるんですよ。
楠 そうなんですか? あれってどういうシステムなんでしょう?
ぼくはこのルポをはじめるにあたって、お金にまつわるさまざまなサービスを実際に試している。そのうちのひとつが「VALU」というビットコインを使ったサービスだ(https://valu.is/about)。
これは、簡単に言うと自分自身に値段をつけて上場できるサービスだ。最初の値段と発行VALU数(株のようなもの)はSNSのフォロワー数などで自動的に決められている。それを自分で売りに出すのだが、買う人がどのくらいいるかは未知数だ。買いが多ければ値段を上げても売れるし、買いがなければ値段を下げてみるしかない。
完全に株だが……この場合一体なにを取引しているのか、やっていてもさっぱりわからない……。