衰退一途の熱海がいつのまにか復活を遂げた「再生の秘密」

街づくりの立役者に訊く
市来 広一郎 プロフィール

ポテンシャルは必ずある

これからの狙いは、観光と暮らし、地元民と移住者、若者とシニア、様々な要素が混じり合う多様性がある街にしていくこと。そこに欠かせないのが女性の感性です。というのも、カフェにしてもマルシェにしても、いち早く興味を持つのは女性が多いですし、家事や育児など暮らしに深く関わっているのも女性。観光の面でも、接客の現場では女性が最前線で活躍しているからです。

しかし、まだ会議の場ひとつをとっても男性中心、年配の人中心というのが地方都市の現実です。「どうして女性がいないんですか?」と尋ね、多様性の大切さを話して初めて「確かにそうだ、次回から呼びましょう」という話になる。今後は移住者だけでなく、女性や学生、ときには外国人など多様な人の感性をいかに街づくりに取り入れていくかが、取り組んでいくべき課題になるでしょう。

 

先日、熱海再生に取り組んだこれまでの経緯をまとめた『熱海の奇跡』 という本を出版しました。僕は熱海にこだわって活動をしていますが、他の地域でも街づくりに取り組む人がどんどん増えてほしいというのが、この本に込めた願いです。

全国の街がそれぞれの個性を伸ばし、隣町に行くと全く違う文化や違う雰囲気があるとしたら……。日本にそんな姿が生まれたら、生活することも旅することも楽しくなりますし、国内はもちろん世界中からもっと人がやってくるようになります。

衰退した地方都市は、いまや珍しい存在ではなくなりましたが、昔から人が住んでいるところには、必ず何かしらの魅力や人が集まる理由があるはず。中にいるからその魅力に気づかないだけで、ポテンシャルは必ずあるんです。

「街を変えるプレイヤーがいない」と嘆く自治体の方の声を聞くこともあるのですが、まず「地元を飲み歩いたほうがいい」と言いたい(笑)。彼らは自宅で仕事をしているクリエイターかもしれないし、地元で長く飲食店をやっている人かもしれない。自治体が求める「民間で自立して街づくりに関われる人たち」はほとんどの場合、行政のイベントには来ません。

でも既存の人脈にいないだけで、必ず街には面白いことをやっている人がいる。民と官、どちらが先かわかりませんが、そのことに気づいて動く人たちがいれば必ず街は変わる。僕はこれからもそう信じています。

取材・文:木内アキ 写真:Hamatsu Waki(2枚目、3枚目)、Tanaka Yoji (5枚目)