衰退一途の熱海がいつのまにか復活を遂げた「再生の秘密」

街づくりの立役者に訊く
市来 広一郎 プロフィール

観光客数の回復だけでは、本当の復活とは言えない

現在、熱海を訪れる観光客が増加していますが、それはもしかすると一過性の現象かもしれません。ただ、本当に喜ばしいことに、熱海に関わって今後の変化を作りだしてくれるであろう30代前後の若いプレイヤーが、ここ5年で劇的に増えているのです。

そのきっかけのひとつが、僕も関わっている「ATAMI2030会議~熱海リノベーションまちづくり構想検討委員会」。少子高齢化をはじめ、今以上に深刻な課題に直面するであろう2030年の熱海を、自分たちの手で対策を考え作り上げる、そのためのイノベーションを生み出す場です。

テーマに合わせた講師の話に始まり、市の抱える課題に対する行政側のプレゼンテーションや、他地域での実例紹介、会場での意見交換などがその内容。熱海で事業活動をしている、またはやりたい人、そうした熱海に感心を持っている人が毎回100人以上集まるのですが、そこに参加したことをきっかけに熱海に関わってくれる人が本当にたくさんいます。

 

というのも、首都圏とアクセスがいい熱海は、外部の人にとっていろいろな関わり方ができる場所なんです。移住だけではなく、別荘も持つ人、旅館やゲストハウスを利用して週末だけ泊まりに来る人。購入したセカンドハウスを解放し、みんなで畑を作っている、という事例もあります。観光でもなく移住でもない、その間のグラデーションのある多様な暮らし方ができるのが熱海なんです。

もちろん地方都市が移住者を迎え入れる場合、入ってくる人と地元住民の断絶というのはよくある話です。僕たちはその問題に対し、ゲストハウスの宿泊客に地元の商店街の店を紹介したり、ATAMI2030会議の構成を意図的に地元と外部の人員が混ざるようにするなど、可能なかぎり交流の場を設けています。

面白い人がたくさんいる、多様な考え方や捉え方があって良いんだ、と分かることがお互いにとって大事なんです。

地元で意識調査をすると、観光や自分の商売のことだけでなく「熱海のこと」を考えている熱海住民が多いことに驚かされます。それはきっと、観光地・リゾート地であると同時にそこに根づいて暮らせる街でもある、という特性からくるものでしょう。

以前視察に行ったある地方都市では、街をあげて観光振興に取り組もうとしているのですが、地元にある主要企業の多くが外部資本であるため、なかなか足並みが揃わない。その点、熱海のほぼ全ての企業が観光産業ですから地域振興は死活問題。真剣度が違います。

ただ、人口約3.7万人の小さい街ですし、若い人たちも少ないので、地元にいる人だけでイノベーションを起こすのはやはり難しい。外部から人がやってきて、自分なりのやり方で熱海を使ってもらう、それをきっかけに地元の人にも化学反応が起き、街も新しく変わっていくのではないか、と実感しています。