衰退一途の熱海がいつのまにか復活を遂げた「再生の秘密」

街づくりの立役者に訊く
市来 広一郎 プロフィール

変化の鍵は、危機感を共有した同世代の存在

街が変わるきっかけのひとつが、地元の人に地元の魅力を伝える体験ツアー「熱海温泉玉手箱」、通称「オンたま」を開催したことです。

熱海の人が「何もない」というのは熱海の魅力を知らないから。その課題を解決するため考えた企画ですが、熱海市と熱海市観光協会が活動に反応を示し、協動してもらえることになりました。

ほかの地方都市では、なかなか民間の足並みが揃わないという話も聞きますが、10年前の熱海は世代交代の真っ只中。40代の市長が誕生したのと同時期に、自治体や地元企業でも「若い世代に任せよう」という動きが起こり、30~40代がさまざまな場所で表に出てきていました。

 

その人たちは僕と同世代ですから、僕と同じように、街が廃墟に変わる体験を味わっています。大企業や市外の資本に頼ることがいかに街をもろくするか、そして地道に事業を興して人を育てていかないと先がない、という危機感を共有できた。そういう人たちとつながれたことが、新しい流れを生んでいったのです。

2009年から2011年に実施した「オンたま」では、昭和の雰囲気が残るレトロな街並みを歩きながら、路地裏の喫茶店などを紹介する「路地裏レトロ散歩」、南熱海の海を楽しむ「シーカヤック体験」など、地域の人がガイド役を務めるツアーを多数開催。反応は良好で、通算220種以上の企画を実施、参加者は5000人超になりました。

ほかにも空き店舗だらけの熱海の中心街をリノベーションすることでエリア活性を目指す、カフェ『CAFE RoCA』(現在は『シェア店舗RoCA』)のオープンにはじまり、街中に人を呼びこむ交流型ゲストハウス『MARUYA』、コワーキングスペース『naedoco』などの事業を立ち上げていきました。

熱海銀座を歩行者天国にして開催する『海辺のあたみマルシェ』も2013年から開催し、これまでに30回開催。地元の人たちと参加者との関係性を深めていくことで、熱海銀座エリアの空き店舗を「自分が運用しよう」というプレイヤーを育てる場としても機能しています。

もちろん、最初からうまくいった事業はひとつもありません。しかし官にはできない民の力、つまりビジネスの手法を用いた街づくりのメリットは、「続けられること」にあります。

たとえばマルシェを開催するにあたり、歩行者天国を実施することには反対の声もありました。その人たちとの関係づくりに向き合いながら回を重ねることで、通りに活気が出てくる。変化が目に見えて表れる頃には地元の人たちとも関係性が深まっているため、2015年のゲストハウス開業時には応援してもらえるほどになりました。

年度の予算確保や担当者の配属替えによる活動停止など、官で起こりやすい影響を受けず、同じビジョンを掲げて続けていけることが民の大きなメリットではないでしょうか。