「新潟女児殺害事件」、それでも性犯罪者の監視はタブーですか

元事件記者の悔悟と提案
河野 正一郎 プロフィール

子どもへの性犯罪は常習性アリ

そのデータは、犯罪白書をまとめている法務省の法務総合研究所が犯罪白書とは別に2016年に発表した「性犯罪に関する総合的研究」の中にあった。この調査は、2008年7月から09年6月までに有罪が確定した性犯罪者1484人が5年後にどうなっていたかを追跡調査したもので、例年発表される犯罪白書より精緻な調査結果だ。

1484人のうち、調査時点で性犯罪を再犯していた207人について、調査時点での犯罪ごとに、過去に同じ犯罪をしたことがあるか(強制わいせつを例に挙げれば、調査時点で強制わいせつ罪を犯した人が過去にも強制わいせつ罪をしていたか、という意味)どうかの再犯率を調べたところ、結果はこうなった。

▽単独強姦(集団ではなく1人で強姦したケース)=63.0%
▽強制わいせつ=44.0%
▽13歳未満の小児に対するわいせつ=84.6%
▽痴漢=100%

 

つまり、痴漢はもちろんのこと、小児に対する性犯罪は常習性、反復性が高いことがデータでも裏付けられているのだ。現実に、本件の小林被告は、女子中学生に続き、女子小学生を犯罪の対象に選んでいた。幼い子どもを対象とした性犯罪の再犯率の高さは、「一種の病気」といったら言いすぎだろうか。

では、こうした性犯罪の再犯について、どんな対策が考えられるだろう。

「野放し」でいいのか

かつて法制審議会(法務省が設置する各法ごとの審議会)の刑法部会幹事だった加藤久雄弁護士は「日本の刑事政策では、性犯罪者に対して刑期を与えるだけ。起訴に至らなかった容疑者は事実上野放しになっているのが現状です」と指摘する。

ドイツの事情に詳しい加藤弁護士は「ドイツでは性犯罪を犯した人は裁判所の判断でほぼ全員が精神鑑定を受けるようになっていて、鑑定の結果で再犯の可能性が高いと判断されれば、病院などの更生施設に隔離されます。一種の異常者、病人と判断されるからです。再犯の可能性が消えない場合は一生涯、施設内で隔離されるケースもあります」と話す。

心理学からのカウンセリングなどを実施した結果、ドイツの性犯罪の再犯率は6割から3割に減ったという。

(ドイツの再犯率の数字を見て、ドイツは性犯罪が多いという印象を受けるかもしれません。ただ、日本では、これまで被害者の刑事告訴がないと捜査ができなかったことや、被害者が事を大きくしたくないと考えるなどして、性犯罪事件の発生件数そのものが少なくなる傾向があります。加えて、日本ではまだまだ、被害を申告した女性が「セカンドレイプ」に遭うケースが後を絶ちません。日本には被害を申告しやすくするシステムづくりなどが必要だろうと考えます)

世界各国では、アメリカで薬物療法が取り入れられるなど、性犯罪者を病気のように扱って治療を施すケースも出てきた。だが、日本では薬物療法についても、副作用や、服用にあたって同意が得られるかなどの問題があって慎重な考え方が根強い。

加害者が更生し、社会復帰するのが最も望ましいという意見に異論はないだろう。ただ、社会復帰を果たすためには、性犯罪者を支える周囲の人のバックアップが欠かせない。

ところが、性犯罪を繰り返してしまう容疑者は「家族からも見捨てられ、社会に友人すらいない人が大多数」(加藤弁護士)という。加害者の多くが、周囲のバックアップをさほど期待できない環境に置かれているのも現実なのだ。

そうであるなら、性犯罪者は事件の悪質性を問わずに全員、精神鑑定をしたらどうか。予算的に難しいのであれば、せめて、未成年者に対する性犯罪を犯した者は、全員鑑定できないものだろうか。鑑定して再犯可能性があるうちは隔離し、隔離をやめたあとも適度に監視しながら治療経過をチェックし続ける必要があるだろう。

加藤弁護士によると、ドイツでは性犯罪者1人あたり、年約2千万円のコストをかけて、性犯罪者の再犯を抑えようとしているという。安い金額ではない。ただ、幼い子どもの命や尊厳を力任せに侵害する犯罪をこのまま野放しにしておけない。治療がうまくいって、凶悪な性犯罪者が1人でも少なくなれば、事件で苦しみ悲しむ人の数はそれだけ少なくなるはずだから。