私が大学で「ナチスを体験する」授業を続ける理由

人はいとも簡単にファシズムになびく
田野 大輔 プロフィール

ほぼ全員が「制服」を着てくる

2回目の授業は、制服を着用して出席した受講生に対して、敬礼と行進の練習をさせるところからはじまる。ほぼ全員が同じ白シャツ・ジーパンを着て「ハイルタノ!」と叫ぶさまは壮観だ。制服の効果は圧倒的で、声も足踏みの音も明らかに前回より迫力がある。

次いで前回の授業のまとめを行うが、その途中で私語をして授業を妨害する派手なシャツを着た出席者(実はサクラだが他の受講生はその事実を知らない)を注意し、教室の前に引きずり出して、見せしめのため首にプラカード(「私は田野総統に反抗しました」と書かれている)をかけて立たせる。教室内は静まり返り、受講生は固唾を飲んで様子を見守っている。

ほとんどの学生が「制服」を着てくる(写真撮影:田中圭祐)

一件落着後、集団の標識となるロゴマークの作成に入る。拍手による投票で3つの候補から選んだロゴマークをガムテープの切れ端にマジックで記入し、ワッペンとして胸につけてもらう。さらに集団の目標として大学構内の「リア充」(カップル)の排除を掲げ、彼らを糾弾する掛け声(「リア充爆発しろ!」)の練習とあわせて、再度敬礼と行進の練習を行う。

その後、教室から大学内のグラウンドに移動して行われるのが、授業の山場である屋外実習だ。異様な集団を見ようと集まった多くの野次馬(一般の学生)が見守るなか、グラウンドに整列した参加者はまず数回「ハイルタノ!」の敬礼を行って教師=指導者に忠誠を誓い、笛の音に従って誕生月ごとに隊列行進を行う。この段階ではまだ声も歩調もあまり揃っていない。

敬礼と行進で独裁者に忠誠を誓う(写真撮影:田中圭祐)
 

「糾弾」が集団の熱を高める

だが次にグラウンドの脇に座るカップル(これも事前に用意したサクラ)を集団で取り囲み、拡声器の号令に合わせて「リア充爆発しろ!」と糾弾しはじめると、参加者の声は明らかに熱を増してくる。

何度も大声で怒号を浴びせられたカップルがたまらず退散すると、参加者の間には誇らしげな表情が浮かぶ。3組のカップルを退散させ、拍手で目標達成を宣言した後、教室に戻って実習は終了となる。

この糾弾行動は映画『THE WAVE ウェイヴ』にはない脚色で、不測の事態を防ぐと同時に、教育効果を高める目的で導入したものである。攻撃対象となる敵役を用意した上で、教師の号令のもと受講生にこれを糾弾させれば、攻撃的衝動をコントロールしつつ発散させることができると考えたのである。

以上のような一連のパフォーマンスを通じて、受講生は教師に指示されるまま集団に合わせて行動しているうちに、本来なら良心がとがめるような悪行を犯すことになるわけだが、その過程で自分を含む集団の意識がどう変化するかを観察し、ファシズムの危険性がどこにあるかを認識するようになる。それがこの授業の狙いである。