将来的には2割減もありうる!「年金カット」に今から備えよ

人生100年時代のマネーシフト(12)
加谷 珪一 プロフィール

そろそろ年金給付の抑制が現実味を帯びてきた

年金の給付を抑制しようという動きは、実は政府内で着々と進められている。年金を抑制する仕組みの中核となっているのが2004年に導入されたマクロ経済スライド制である。マクロ経済スライド制と聞くと、経済状況に応じて年金額を調整するためのものというイメージを持ってしまうが、実際は異なる。

ごく簡単に説明すると、人口動態の変化に合わせて、年金の給付を抑制するための制度である。つまり現役世代の比率が下がった分だけ、高齢者の年金を減らすということである。

ただ、この制度を導入して以後、日本経済はずっと低空飛行を続けてきた。年金給付を引き下げてしまうと高齢者の生活を直撃するので、マクロ経済スライド制はこれまで1度しか発動されていない。だが、年金財政が逼迫していることから、そろそろ制度の再発動が行われるとの見方が強まっている。

もっともマクロ経済スライド制の発動は段階的に行われるので、急に年金額が大きく減るということはないだろう。しかしながら、筆者が大雑把に試算したところでは、今と同じ経済状態が続くと仮定した場合、2040年の段階でも年金財政には2割ほどの赤字が生じてしまう(積立金の運用益を除く)。

今後、日本の人口は急激に減ってくるので、高齢者への年金給付総額も減少するが、現役世代はさらに人口が減ってくるので(つまり高齢化はさらに進展するので)、年金財政は好転しないのだ。

したがって今後は、この差額を埋めるため、2割程度を目安に年金の減額が段階的に進んでいくと考えた方がよい。仮に日本経済が驚異的に成長し、保険料収入が大幅に増えれば、ここまでの減額は必要ないかもしれないが、そうなったらラッキーというくらいにとどめておくべきだろう。

 

これからは生涯労働が当たり前に

政府は同時に、年金の支給開始年齢引き上げについても検討している。4月に行われた財政制度等審議会では、年金の支給開始年齢を現在の65歳から68歳に引き上げるプランが議論された。政府は表立っては口にしていないが、定年後はリタイヤするという従来の考え方をあらため、生涯労働を前提とした社会保障制度へのシフトを目論んでいる。

支給開始年齢の引き上げが実施された場合には、一生涯に受け取る年金額が減らないよう増額措置を行うとしているが、先ほど説明したマクロ経済スライド制による年金減額が発動された場合には、結果として増額分は相殺されてしまうだろう。

現状の年金財政について総合的に判断すると、支給開始年齢の引き上げや、年金給付の減額は避けて通れないと考えるべきである。足りない分については、定年後も仕事を続けるか、現役時代に蓄積した資産を運用することで副収入を得る必要が出てくる。

現役世代の負担については、現行制度では上限一杯となっているので、当面、保険料の引き上げは実施されない。だが現役世代の負担増についても検討が行われる可能性は十分にあり、その場合には、保険料が再度、引き上げられることになる。

確率は低いが、景気低迷がさらに深刻になったり、金利が上昇して緊縮財政を余儀なくされた場合には、話は根本的に変わってくる。国庫負担が維持できないとなれば、さらなる給付の引き下げもあり得るだろう。

日本の公的年金は制度的に破綻することはないが、状況が厳しくなっていることだけは間違いない。よほど資金に余裕のある人を除いては、これからは生涯労働を前提に人生設計を行うのが標準的になると筆者は考えている。