ある日突然、「虐待」で通報された親子のトラウマ

本当に必要な対策とは何か?
井戸 まさえ プロフィール

警察と児相の連携、という恐怖

結愛ちゃんのように虐待が疑われる親や子どもに面接を試みるが会えない場合等、児童相談所は臨検・捜索を行なう。ただ、そこに問題がないわけではないと元児童相談所所長は以下の点を指摘する。

実は、臨検・捜索を行なう場合、虐待の「疑い」だけでいい。虐待が行われている疑いがあると認められる「資料」だけで許可状請求できるのだ。

その資料は「近隣住民や保育所等の関係機関からの聞き取り調書、市町村における対応記録の写し、児童相談所における記録(児童記録票その他の調査記録)などが考えられる」としか書かれておらず、曖昧なものでもある。そして、警察の援助も要求できるのだ。

重篤なケースに関しては機能するこの内容だが、一方でその度合いに限らず「虐待の『疑い』だけで、証拠の提出もなしに、児童相談所が作成した記録だけで裁判所の許可がもらえ、警察も動かせる」ということは、往々にして個々が必要としている助けとは違う処方箋、時に劇薬を投与することになりかねないのだ。

だからこそ、ケースのアセスメント、マネジメントが適切にできる人材を養成、確保、配置。ケースの課題、リスクを客観的に把握分析しながら、そのリスクを解消、低減させるには何が必要なのか、支援にはどの機関がどのように関わればいいのかを判断する要の場所が必要だ。

入ってきた事案に対して、北風(介入のための権限行使・警察の関与を含む)か、太陽(福祉的なよりそい支援)のどちらが適切かなど、間違えない「初動」を行なえる場所。

それは地域の子ども家庭支援センターであり、子どもたちを妊娠期から地域で、まさに水際に立って守護する保健師の力を持つ市区町村だ。最も住民に近い行政の強みと潜在力を引き出すべきであろう。

つまり、市区町村に求められるのは街のクリニック機能である。児童相談所は大学病院、総合病院の機能に特化できるような体制にしなければ、児相として期待される専門性を発揮することも難しい。

「現状では、児童相談所は日々のケースに追われており、児童福祉司も必要な研修にも満足に参加できていません。正直なところ児童福祉司は、さまざまな事例に関して経験を積んでいるだけであり、市町村職員とほぼほぼ変わらない状態になっている」(元児童相談所所長)

児童福祉司の増員も言われる中で、彼らが専門的知識を発揮し活躍する環境を整えなければ、結局は同じことが繰り返されていく。

Bさんは警察との連携にも危惧を抱く。

「警察と児相が情報共有というニュースに凍ついた。もしそんなことになったら、うちだって児相に「前科者」として記録は残されてるわけだから……本当に恐ろしいです」

 

家族支援の適切規模は30〜50万人

実はこうした子ども支援、家庭支援が最も効果的にできる規模は人口30万〜50万人、いわゆる中核市規模と言われている。

だからこそ児童相談所はその単位で設置されているのだ。

都道府県や政令市だけでなく中核都市も児童相談所を設置できるが、それは努力目標となっている。

東京23区も児童相談所の設置ができるようになったが、権限、財源の移管も含めて課題は多い。

本来はこの規模の市区町村が専門職配置可能な基礎的自治体として、様々な事案に対し、同じ行政内の子ども家庭支援センターと機能を分担しつつ、独自の判断で対処することが可能となれば、虐待防止策は一気に改善する可能性があるとともに、Bさんのような無為なトラウマを抱えてしまう事案も減るだろう。

児童虐待防止策を考える上ではそうした報道されない多くの子どもたちの存在も認識した上で、対処療法的ではない、抜本的な改革を進めていかなければならない。