データを見れば「誰でも15分で地震予測ができる」ことをご存知か

ラボ・フェイク 第4回
伊与原 新 プロフィール

さて、肝心の的中率はどうか。これについては、上川瀬名氏がブログなどで詳しく検証している(末尾の参考文献参照)。氏のまとめによれば、(予測情報が公開されている範囲での)的中率はどちらのサービスでもせいぜい2割程度。

2割当たれば上出来じゃないかと思った方には、次のことを付け加えたい。年間に100件を超える地震予測を乱発したり、日本の国土の3分の2近くの地域に同時に警告を発したりしているにもかかわらず、その成績なのだ。

的中率は悪くとも、大きな地震を予測できていればまだ価値があるかもしれない。だが上川氏によれば、そちらの実績も惨憺たるものだ。週刊誌や夕刊紙で度々発表している「○年○月までに北海道〜東北で大地震」「○年○頃までに関東で巨大地震」などという予測は、ことごとく外れている。

その上、先の大阪北部地震どころか、甚大な被害をもたらした2016年4月の熊本地震(M7.3)さえ見逃しているのだ。「驚異の的中率!」などと持ち上げているメディアの中では、こうした事実はなかったことになっているらしい。

「この先1ヵ月の間に、東北地方でM5程度の地震が起きる」。いかにも地震予測サービスが出しそうなこの予測は、実は私がほんの15分ほどで立てたものだ。使ったのは、気象庁が公開している地震のデータベースのみ。

理屈も単純である。過去1年間(2017年5月〜)、東北地方ではM4.5〜5.5の地震が月平均3回以上発生しているのだ。したがって、この予測は相当高い確率で当たるだろう。裏を返せば、予知情報としては何の意味もない。

日本周辺でM5程度の地震は年平均160回ほど、震度5弱以上の地震は年平均18回起きている。けっして頻度の低い事象ではないのだ。地震予測サービスの情報に振り回されないためには、このような数字を知っておくことも大切だろう。

 

メディアをにぎわす"専門家"とは……?

では、これらの地震予測サービスは、科学的に見て信ぴょう性のないものなのだろうか。上川氏は、電波の"異常"も地殻変動の"異常"も、ただの観測ノイズである可能性が極めて高いと指摘している。

ほとんどの地震学者も、おそらく同じように考えている。地震の前兆として、電波や地殻変動に何らかの変化があってもおかしくはない。しかし、その微妙な変化は観測ノイズに埋もれて検出できないだろう、と。

穏健な言い方をすれば、「未科学」と見なしてもいいのかもしれない。それを真っ当な「科学」にするためには、まず、彼らが使用している生データ、解析方法、これまでに出した予測などをすべて公表し、誰にでも検証できるようにしなければならない。

手の内を明かすとビジネスにならないというのなら、結構だ。その代わり、「当たりもしないインチキ予測で人々を惑わし、金まで取っている」という批判も甘んじて受けるべきだろう。

もう一つ強調しておきたいことがある。取り上げた二つの地震予測サービスを立ち上げた元教授らは、どちらもれっきとした科学者ではあるが、地震学の専門家ではない。もともとは工学系の研究者だ。

その他にも、やはり週刊誌などのメディアで独自の地震予測を展開している"専門家"が、私には何人か浮かぶ。彼らもまた地震学者ではなく、地質学、地理学、歴史学など、異分野の研究者である。

誠実な専門家は、専門性が高くなればなるほど、自らの力を過小評価する傾向にある。その分野の最先端を知っているということは、限界を知っているということでもあるからだ。

日本には優秀な地震学者が大勢いる。地震予知について彼らの口が一様に重いのは、彼らがことさら慎重だからでも、臆病だからでもない。科学の力がまだそこまで及んでいないということを、専門家として誰よりよく知っているからだ。

門外漢は口を出すなと言いたいわけではない。専門が何であろうと、有効な予知方法を見出したというのなら、論文にするなり学会で発表するなりして、アカデミアの議論に付せばいい。メディアをにぎわす学者の地震予測は、それがおこなわれていないのだ。

なぜ彼らの地震予測が、学術誌ではなく週刊誌にしか取り上げられないのか。なぜ本物の専門家である地震学者たちが、彼らの事業に参入していかないのか。皆さんにも、ぜひ一度その意味を考えてみていただきたい。

(次回「あなたが買っている「体にいい水」はニセ科学かもしれない」はこちら

参考文献(第3回、第4回)
『地震予知の科学』日本地震学会地震予知検討委員会編 東京大学出版会(2007)
『地震前兆現象を科学する』織原義明、長尾年恭著 祥伝社新書(2015)
『衝突する宇宙』(新装版)イマヌエル・ヴェリコフスキー著 鈴木敬信訳 法政大学出版局(2014)
『疑似科学と科学の哲学』伊勢田哲治著 名古屋大学出版会(2003)
『20世紀日本人名事典』日外アソシエーツ株式会社編 日外アソシエーツ/紀伊国屋書店(2004)
「地殻変動と地震予知 ―下向きの研究から上向きの研究へ-」田中寅夫『京都大学防災研究所年報』42号A(1999)
「メディアを賑わす『地震予知』のニセ科学性」上川瀬名『RikaTan(理科の探検)』25号 SAMA企画(2017)
「椋平は虹を見たか――地震予知に捧げた人生」オカルト・クロニクル
https://okakuro.org/mukuhiras-arc/
神戸大学経済経営研究所 新聞記事文庫 大阪毎日新聞 災害及び災害予防(7-135)
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/sinbun/index.html
横浜地球物理学研究所(上川瀬名氏のブログ)https://blog.goo.ne.jp/geophysics_lab
地震調査研究推進本部 https://www.jishin.go.jp
東京大学地震研究所 http://www.eri.u-tokyo.ac.jp
気象庁 http://www.jma.go.jp/jma/index.html
[書影]ニセ科学の闇に切り込むミステリ『コンタミ』ニセ科学の闇に切り込むミステリ『コンタミ』