シンポジウム「限界を超えて」開幕〜人類はどこへ向かうのか

現代新書 特別エッセイ「自著を語る」
高橋 昌一郎 プロフィール

私たちの世界の作者

異端者 そうです。しかも、やはり思ったとおりだ! ゴーギャンの絵の題名から、ボストン美術館の原画の描写、そして解説の話になったでしょう? 皆さんは、以前のシンポジウムでも同じような話の流れになったことを覚えていらっしゃいませんか?

会社員 そう言われてみると、たしかにまったく同じ場面を経験した覚えがありますね! これが「デジャブ」というものなのかな……。

異端者 いや、違います! いいですか、私たちは、というか、私たちもシンポジウムも何もかも、すべては一人の人間の頭の中から生み出されているんです! 

だから、同じ話題が出てくると、同じような内容の話が繰り返されるんですよ。

おそらく私たちの世界の作者は、ボストン美術館でゴーギャンの絵に感動した経験があるに違いない。だからこそ、この話題が出てくると同じ内容が繰り返されるんだ……。

 

運動選手 「私たちの世界の作者」? ということは、その作者が私たちの「創造主」というか、「神」だということでしょうか?

異端者 「神」だって? とんでもない。我々を創造したのは単なる作者で、彼の頭の中に渦巻いているのは、雑多な知識やくだらない夢想ばかりにすぎませんよ。

その彼にインスピレーションを与えたのが、「コウダンシャゲンダイシンショ」という「神」なのです!

大学生A つまり、「神」が「作者」にインスピレーションを与えて、その結果として私たちの世界が生まれた、そういう「神話」があるというお話ですね?

 「コウダンシャゲンダイシンショ」は神?

異端者 これは「神話」ではなくて「事実」なんですよ、お嬢さん。

皆さんは、アロウの不可能性定理とハイゼンベルクの不確定性原理とゲーデルの不完全性定理をテーマとするシンポジウムを開催して、その記録が『理性の限界──不可能性・不確定性・不完全性』として出版されたことを覚えているでしょう?

そもそも「コウダンシャゲンダイシンショ」は、

「講壇からの天下りでもなく、単なる解説書でもない、もっぱら万人の魂に生ずる初発的かつ根本的な問題をとらえ、掘り起こし、手引きし、しかも最新の知識への展望を万人に確立させる書物を、新しく世の中に送り出したい」

という「念願」によって誕生した「神」なのです。

続いて、皆さんは『知性の限界──不可測性・不確実性・不可知性』と『感性の限界──不合理性・不自由性・不条理性』について議論し、その記録も出版されましたが、これらもすべて「コウダンシャゲンダイシンショ」の望みを叶えるためだった。

つまり、私たちはすべて「神」の念願を叶えるための「作者」の空想上の産物にすぎないのです!

カント主義者 実にバカげた観念論だ……。そもそも君の言うことが真実だという証拠はどこにあるのかね? 白日夢でも見たんじゃないかね?

異端者 いえいえ、夢じゃありません。それに証拠もあります。それは「コウダンシャゲンダイシンショ」という言葉です。私は、この言葉を「神」から授けられたんだ!

精神分析学者 必ずしもそうとは限りませんよ。あなたの超自我が、どこかで聞いた言葉を潜在意識で組み立てたのかもしれない。最近、心に強く負担のかかるような出来事はありませんでしたか? たとえば、奥様と大喧嘩なさったとか……。

異端者 そんな出来事はありません! とにかく私は、すべての存在理由を明らかにしたんだ。皆さんには、これが大発見だということが、おわかりにならないのですか?

司会者 そのお話は、また別の機会にお願いします!

高橋昌一郎(たかはし しょういちろう) 
1957年生まれ。國學院大學教授。講談社現代新書では2008年に刊行された『理性の限界──不可能性・不確定性・不完全性』などの「限界」シリーズの他、『ゲーデルの哲学──不完全性定理と神の存在論』がある。

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