丸山ゴンザレスが「水上スラム」で飲んだ、世界一不快な液体

クレイジージャーニー裏日記⑪後編
丸山 ゴンザレス プロフィール

魔女なのか…

この集落の特色を示す店にも行くことができた。ラグーンの入り口とでもいうのだろうか、船着き場から一番遠くに独立した小屋が建っている小島のような埋立地があった。

「ここは?」

船頭は無言だ。小屋に船が着けられる。中にいるのは女性ばかりのようだった。特に警戒している様子もなく、「取材したいので入っていいですか?」と伝えると、「どうぞ」と快諾してくれた。

家と呼ぶには生活感のない場所だ。雑然と木の枝の束や葉っぱが入ったカゴが積まれている。積み方に規則性があることから、これがゴミではないことがわかる。だが、商品だとすると……これは何なのだろうか?彼女たちに訊くしかない。

「ここにあるものはなんですか?」
「ジュースの材料だよ」

 

ひときわ高齢の女性が返事をしてくれ鍋のフタをあけた。そこに入っていたのは泥水のような色をした液体。子供がままごとで作った雑草ジュースのようだと思った。

(これって飲めるのか?)

疑問を抱くと、実行するのみだ。躊躇は必要ない
「一杯ください」
こちらの注文に老婆は無言で応じた。

鍋には木の枝と葉っぱ、柑橘系の果物の残片のようなものが入っているのが見えた。そこから煮出した液体。味の想像がつかない。コップに満たされた液体は近くで見ても泥水にしか見えなかった。

一口含む。

「!」

声にならない絶叫をあげそうになる。私は、どんなに口に合わないものでも、現地食べたものを戻したり「不味い」と言うことは避けている。相手の食文化に対して敬意を払っているからだ。

だが、この液体だけはダメだ。臭いとか不味いとかじゃなく、えぐ味がヤバイのだ。身体が受け付けない。戻しそうになるのを堪えて無理矢理に飲み込んだ。

「不味い!いままでで一番ヤバイっすわ」

思わず口から出た。
(しまった!)
相手を不愉快にさせていないかと、老婆を見る。

「くくく……」

老婆は笑っていた。この反応は珍しくないのだろう。
気になるのは、このドリンクの正体である。正直、こんなものが売り物になっているとは信じられない。東洋人とアフリカ人。人種の差こそあれ同じ人間である。味覚がそこまで乖離しているとは思えない。

「これは何ですか?」
「これは薬なのよ。元気になる薬草を煮出しているの」

彼女は、自分が「ウィッチドクター」であることを教えてくれた。ウィッチドクターとは、アフリカ各地に残る黒魔術や精霊信仰の一種で、心霊治療医などと呼ばれる存在だ。

彼女がどのような出自で、どのような精霊を扱えるのかを示す証拠は、彼女の顔に刻まれたタトゥーにあるそうだ。残念ながらその方面の専門的な知識を持ち合わせていないので、これ以上の深掘りはできなかった。

ウィッチドクターをしている老婆
思わず不味いとなったジュース

その後も床屋やそのほかの商店、学校などを回った。どこも埋め立て地だったり、高床式の住居だったりした。外から見ていると原始的な暮らしのようにも見える。だが、一軒ずつを見て一人ひとりに話を聞いていくと、まったくイメージと違うことがわかってきた。