アスペルガーの夫が起こすトラブルの積み重ねで妻はカサンドラになる

「カサンドラ症候群」自覚と回復の道②
野波 ツナ プロフィール

「なんとかなる」のスパンが短い

アキラさんの口癖は「なんとかなる」ですが、このエピソードからもわかるように、なんとかなるんじゃなくて、「誰かがなんとかしてる」んです。普通だったら自分がなんとかしなきゃいけないんですよ。

でも、アキラさんの場合は、「誰かがなんとかしてくれる」のを、自分の人徳的に、運命が味方してくれたからなんとかなってるという風に捉えているんですね。

でもそれも「アスペルガー症候群」の特性ゆえです。日々の、その一日一日しか視野にないので、「さあ来週どうしよう」とか「来年どうなってるかな」とかそこまで考えることがない。「今日生きてるし、明日食べる分のお金もあるから、まあなんとかなるでしょ」っていう「なんとかなる」なんです。

 

だからそんなに「なんとかなる」のスパンが短いことを知らなかったので、住宅購入では失敗してしまいました。買うときにだいぶ悩んだんです。

私は漫画家、アキラさんはフリーの編集者と、二人とも不安定な仕事なので、「ローンを何十年も払い続けていけるのかな」と、アキラさんに相談したのですが、「大丈夫かなあ?」って聞いてみたら、「いやあ、まあ今の家賃と同じだし、大丈夫でしょう」って言うんです。「でもこの先仕事が無くなったりしたら……」と重ねて言っても、「まあなんとかなるでしょう」って。

そのとき、頼もしく感じちゃったんですよね。例え仕事が減っても「また仕事をとってくればいいんだし」っていう意味だと思ったから。

でも、今思えば、実は今日明日しか考えてない「なんとかなる」だったんだなと思うんです。それを知っていれば、その時のアキラさんの「なんとかなる」を信用せず、自分ひとりで考え、自分一人の責任で、買うか買わないかを判断したのに。

ストレス起因の心身症状

借金発覚から1年後、結局ローンが払えなくなり、家を売却することになりました。それと同時にアキラさんとは別居。その頃には私はすっかり、心身ともにどん底状態に陥っていました。結婚してから発症したバセドウは悪化、抑うつ状態に偏頭痛、不整脈に対人恐怖症……。

『旦那(アキラ)さんはアスペルガー アスペルガーとカサンドラ』より
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「カサンドラ症候群」はこのように体と心の両方に症状が出てきます。心に出る場合、一番多いのが「気分障害」とか「抑うつ状態」、そして感情が無くなってしまう「情動はく奪」といわれる状態です。

あと自己の消失という「自分が何者なのか」っていうそういうものを見失ってしまう、ただ物のような存在になってしまうとか。無気力と睡眠障害も多いですね。寝付けない、眠りが非常に浅いとか。

そうしているうちに、どんどん体の方にもストレスがたまっていきますので、病気になる人も多いです。ホルモン異常とか、抵抗力が落ちるとか、高血圧とか。あと意外に多いのが「がん」です。カサンドラの会とかに行くと、「乳がんになりました」「子宮がんになりました」「今闘病中です」っていう人が「こんなにいるの?」っていうぐらい。つまり、「カサンドラ症候群」はそれぐらい辛い状態だということだと思います。

(次回に続く)

〈取材・構成/松本愛〉

*『カサンドラ症候群』はDSM-5(アメリカ精神医学学会が定める診断基準で国際的に広く用いられている)に記載されておらず、正式な病名ではありません。また『アスペルガー症候群』も『自閉症スペクトラム障害』という診断名に統合されていますが、現在のところ、日本の医療現場や社会では広く使われているので『旦那(アキラ)さんはアスペルガー』シリーズ及びこのインタビューではそのまま表記しています。
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