恐竜化石はなぜ鳥羽で見つかったのか

――地質から日本列島の成り立ちがわかる
中川 隆夫, ブルーバックス編集部

明らかになった霊峰の秘密

ふたたび、地質構造の大きな視点から、志摩半島の鳥羽に戻ってみましょう。

鳥羽地域は全体に複雑なんですが、特に注目すべきところが、鳥羽から伊勢にかけて東西に連なる朝熊(あさま)山地の成り立ちです。最高峰である朝熊ヶ岳は標高555m、伊勢神宮の内宮に通ずる金剛證寺がある霊峰です。

今回の調査で、朝熊山地全体の地層がひっくり返っていることが初めてわかりました。大規模な褶曲と断層活動によるダイナミックなプロセスを経ているのです。しかも、朝熊山地は海の底で噴火した巨大海山の一部なのです。付加体にはこのように、海洋プレートに乗っていた海山も一緒に混ざってくることがあるのです

  朝熊山地の成り立ち

古くから信仰の対象となった山が、1億5000万年前には海の底で噴火していた海山だったとは、しかも全体がひっくり返っているとは、だれが想像したことでしょう。

最後に内野さんは、伊勢神宮の白い石の秘密を明かしてくれました。

伊勢神宮のことは全く無知でしたけど、神宮林域での調査の際、神宮の方にお世話になったことで、神宮に興味を持ち、“枝葉研究”としてお宮に使われる敷石について調べてみることにしました。『お白石持』という行事のことはご存じですか?

20年に一度、お宮を建て替える「式年遷宮」に関連した行事でしょうか。

式年遷宮では、建物も装束・神宝もすべて一式、新しいものに取り替えます。同様に、敷いてある白い石も入れ替えるそうです。その行事が『お白石持』です

まさか、石を全部新しいものと入れ替えるというのですか!?

鳥居も建物も、一度使った木材は、他の神社に譲り渡されるなど再利用されるそうで、白石もそうなのです。そこで20年に一度、地元の奉献団が近くを流れる宮川の白い石を集めて正殿の周りに敷き詰めるのです。普段はいっさい立ち入ることができない正殿に、『お白石持』行事のときだけは入れるのです。ですから奉献団は、その日のためにこぶし大の白い石を宮川で集めているのです

【写真】敷き詰められるお白石
  奉献団によって正殿に敷き詰められるお白石(写真は神宮司庁提供)

宮川流域には付加体が分布していることから、この白石はチャートだと、内野さんは最初考えたそうです。主に放散虫の化石からなり、付加体の要素でもあるチャートは、ガラスのように硬く川原では容易に見つけることができます。ところが調べてみると、白い石の多くはチャートではなく、変成した付加体(変成岩)のなかに濃縮されて入っている石英の石だったのです。

付加体の主な要素である泥岩が沈み込み、地下深部で圧力や熱によって変成すると変成岩になるのですが、しばしばその中に白い石英の脈ができます。このお白石の多くは、石英脈が露出し風化してボロボロと落ちてきたものが宮川の流れで丸く削られたものなのです。

それをお白石持行事の際に、全部で10万個以上集めるそうで、大変な労力が必要です。しかも採取場所は宮川に限られているので、探すのもだんだんと大変になってきているようで、苦労がしのばれます

【写真】変成した付加体中に注入している石英脈
  変成した付加体中に注入している石英脈(白矢印) mM:変成した泥岩、mC:変成したチャート

地質は科学と文化をつなぐ

地質や岩石は、産業とは結びついても、文化とは結びつきが薄いように思われていましたが、信仰や歴史など、文化的つながりもあるんですね。山岳信仰や巨石信仰など、思い起こせばたくさんの例が浮かびます。

他分野との融合研究は、昨今さまざまな世界で重視されていますが、地質学でも、地形・文化・植生など他分野と連携する研究が増えつつあります。実のある研究として成り立つか懐疑的な考えの人もいますが、現実には地質と文化は結びつきが昔からあったもので、こういう『お白石持行事』のような文化財からその結びつきを解き明かすことはすごくおもしろいと思いますね

地質図は、研究者のためだけではなく、地域にとっても大事なものです。地域の観光、文化、防災、そして広くは日本列島や地球の成り立ちまで。

地質図づくりは、国土の基盤情報を整備するということと、その地域の地質の成り立ちを示すという2つの重要な意義を持っています。それは今後も変わることがないと思いますし、この意義を世の中にもっとアピールしていく必要があると感じています

恐竜の化石が見つかるのも、山がそこにできるのもちゃんとした地質学的な理由があります。地球の成り立ちという壮大な時間を通してそれらを見つめると、私たちが山や岩を神聖なものとして感じるのも納得がいく気がします。1億年前の恐竜の声にも耳を傾けてみたくなりました。

取材協力:【ロゴ】産総研

【写真】内野さん

内野 隆之(うちの たかゆき)

国立研究開発法人産業技術総合研究所
地質情報研究部門 シームレス地質情報研究グループ 主任研究員

20万分の1や5万分の1縮尺の地質図幅及び20万分の1日本シームレス地質図(Web地質図)の作製のほか、東アジア縁辺域における中・古生代の地質構造発達史の解明について研究しています。地質調査では年間70~80日ほど山中にこもります。そのほか、難解になりがちな地質情報を一般社会で使ってもらえるよう使いやすい形に整備したり、今回の「鳥羽竜」のように、一般の方にも地質に興味をもってもらえるようアウトリーチ活動を行っています。