恐竜化石はなぜ鳥羽で見つかったのか

――地質から日本列島の成り立ちがわかる
中川 隆夫, ブルーバックス編集部

地質図を変えたプレートテクトニクス理論

恐竜の化石だけでなく、この地域は地質学的に非常に重要な場所なのだと内野さんは言います。

「鳥羽という場所は、限られた範囲のなかにいろいろな種類の地質が出ている点で重要なんです。ここの地質をしっかりと定義することは、西南日本で同様な地質を調査・認定する際の基礎にもなりますし、日本列島の発達過程の解明にもつながります」

今度は、より大きな日本全体の地質図を広げて、内野さんの説明は続きます。

「地質図は、ただその土地を歩いて、岩石がどこにどのように分布しているかを単に描いたものではありません。断層や地すべりといった防災上の情報地図という面があったり、我々研究者にとっては、地質の形成過程を示す“地質構造復元図”でもあるのです。そして、これが地球の成り立ちの解明につながります」

日本の地質図は140年の歴史があります。初期は石炭など地下資源の調査を目的として作られていましたが、その目的や書き方はだんだんと変化してきたそうです。

「表現の仕方が大きく変わった転機は、1980年頃に日本にも導入されたプレートテクトニクスという考え方です。地球の表面は大小15枚ほどのプレートに分けられ、地震も火山活動も、あるプレートが隣り合うプレートに沈み込む運動によって支配されています。今では当たり前の考え方も、ほんの40年前には、日本にはほとんどなかったのです。

地質図作製はこういった最新理論の上に成り立っています。付加体に関して言えば、地表の調査だけで地下の断面図を描けるのも、露出していない岩石や断層を推定して表現できるのも、このプレートテクトニクス理論にのっとって解釈している部分が大きいのです。

地質図の目的も、学術研究のためであることは昔と変わりませんが、社会的には今は「資源確保」から「防災」へと大きく変化していると言えます」

日本列島が乗るユーラシアプレートは、東から太平洋プレートに、南からはフィリピン海プレートに押されています。陸側のプレートのほうが軽いため、太平洋プレートやフィリピン海プレートが下に沈み込んでいます。さらに、太平洋プレートとフィリピン海プレートの境では、前者のほうが重いので、ここでも太平洋プレートが沈み込みます。

日本列島の基盤は海溝にたまった土砂だった

紀伊半島は、南海トラフに沈み込むフィリピン海プレートの影響で、北西へ押され続けています。過去においても同様のプロセスを経ていたと考えられ、現在志摩半島に露出している地層の多くは、付加体を始めとする大昔に海溝やその陸側の浅海域でできた地層が、沈み込むプレートに押し付けられながら隆起し陸地を形成していると内野さんは言います。

「日本列島の基盤は、付加体でできていると言っても過言ではありません。付加体は、海溝域に陸側から流れ込んだ大量の土砂と、はぎ取られた海洋プレート上の堆積物(放散虫という珪質プランクトンの遺骸が溜まったチャートやサンゴなど石灰質の生物など溜まった石灰岩)や海山(玄武岩)などの一部とがごちゃ混ぜになったもので、しばしば非常に複雑な顔付きをしています。

付加体の一部は、沈み込むプレートとともに地下深部へ持ち込まれ、高い圧力や熱によって変成し、変成岩となります」

  プレートの沈み込みによって作られる「付加体」の概念図
混在した岩相を示す「付加体」
  混在した岩相を示す付加体 B:玄武岩、M:泥岩、L:石灰岩、S:砂岩

沈み込む海洋プレートは水を含み、地下深部で吐き出されたその水によって融点が下がったマントルからマグマが生まれ、それが上昇して火山の元になると言います。

日本列島の火山の分布を見ると、プレートが沈み込んだ先に、ある一定の距離をおいて一列に並んでいるのがわかります。ちなみに、伊豆諸島をなす南北に連なる火山列は、太平洋プレートがフィリピン海プレートの下に沈み込むためにできたものとのことです。

なぜそこに火山があるのか。なぜそこから温泉が湧くのか。なぜそこで地震が起こるのか。それらはすべて、プレートテクトニクス理論によって説明がつきます。この大きな理論をもとに、山を歩き、谷をめぐり、地質図を描き上げているというわけです。