恐竜化石はなぜ鳥羽で見つかったのか

――地質から日本列島の成り立ちがわかる
中川 隆夫, ブルーバックス編集部

奇跡的に残った恐竜化石の出る地層

同じ白亜紀であっても、付加体からは出ないのですか。

「付加体は、プレートが沈み込んでいく場所、すなわち陸から遠く離れた海溝域の深い場所でできる地層なので、恐竜の化石が見つかることはまずありません。志摩半島の伊勢・鳥羽・志摩地域は、主に付加体の層がミルフィーユのように重なり合っていて、また古い断層もたくさんあり、日本でも有数の複雑な地質をしています。鳥羽では、付加体の上に浅く堆積した浅海層がたまたま残っていたため、そこで化石が発見できたのです」

【図】5万分の1地質図幅「鳥羽」
  5万分の1地質図幅「鳥羽」

地質図を見ると、黄色や青、オレンジに色分けられた地層が東西に細く延びており、まるでブルドーザーで押し付けられた地質のミルフィーユのようです。

「付加体は、南東から動いてくる海洋プレートに押し付けられてできます。この地域は、押されながらより古い時代に付加した地層が順々に隆起して、昔は海底だったところが今は陸地になりました」

恐竜が見つかった松尾層が付加体を覆っているものなら、もっと広く分布していても良いのではないでしょうか。

「プレートが沈み込む所で付加体が押し付けられ隆起する際に、たくさんの断層ができます。そして、この隆起の程度は一様ではありません。

鳥羽の北と南側は大きく隆起しましたが、鳥羽だけは隆起が小さかった。上昇が大きかった場所では、長年の風雨によって付加体を覆う浅海層が削られていきました。しかし、上昇が小さかった鳥羽では、浅海層が大きく削られることなく、松尾層として運良く残ったのです。

つまり、志摩半島に分布する浅海層はさほど多くないのです。とはいえ松尾層は、鳥羽から南西方の南伊勢町五ヶ所湾まで断片的に露出していますから、今後、ここからも恐竜の化石が発見される可能性はあります。ちなみに、鳥羽では鳥羽竜化石以外に、鳥脚類イグアノドンの足跡化石も見つかっているんですよ」

  松尾層(浅海層)が残されるに至った地質形成モデル

もう一度、地質図を見ると、松尾層(地質図でレモン色で示した部分)は鳥羽市の南方で北東-南西方向に細長く延びています。ここでしか恐竜の化石は見つからないということなんですね。こんな狭い分布の中で「鳥羽竜」が見つかったことは奇跡的と言っていいのかもしれません。