ノンフィクション作家の上原善広さん、実は長年に渡り心療内科に通い、大量に服薬していました。しかし一向に症状は改善せず、服薬を続けることに疑問を抱き"減薬・断薬"を決意。本連載ではその一部始終をお届けします。
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そもそもの発端は、女性問題だった。
2010年、一緒に住んでいた女性に、浮気相手である人妻との関係が知られてしまい、泥沼のトラブルへと発展した。
二人の間にはさまれた私は自分を責め、同棲していた彼女に謝りつづけた。すると、このままでは自殺するのではないかと思った彼女に、なかば強引に心療内科へ連れて行かれた。そして即座にうつと診断された私は、通院と同時に大量の精神薬、睡眠薬を処方されて、8年もの間、さまざまな薬を飲み続けることになる。
自分が薬を飲み始めた経緯と、最近になって取材した結果を照らし合わせてみると、やはり第一に、自分の生活環境に問題があったのだと思わざるを得ない。
まず彼女に病院に連れていかれたのも、もう自分では手に負えないと思われたからだろう。そのときの彼女とはもう別れていたし、私は落ち込んで毎日のように涙を流している状態だったから、このまま放っといて自殺されてはかなわないと思われ、病院に連れて行かれたのだ。
あのときの私に本当に必要だったのは、家族の支援と、数か月の休息だったのではないかと思うようになった。
精神疾患から発達障害までを含めた事象で病院に通い、薬漬けになる人の多くが、家族と周囲の支援・見守りに何らかの問題があると言われる。内海聡医師が「日本の家族制度はすでに崩壊しているので、薬に安易に頼ることになる」と指摘しているように、実際は家族の支援や見守りがあれば、いったん病院に行ったとしても、自分はここまで薬漬けになることはなかったのでは、と思うようになったのである。
また、製薬会社などが中心となって行われている情報戦略も、無意識化で影響していたと思う。
「うつは心の風邪」といったキャンペーンに乗せられて、精神科や心療内科に安易に行ってしまった。現在でいうと「発達障害」がキャンペーン中だが、例えば自分に合っていない環境や仕事にとどまるために一生薬を飲み続けなければならない社会というのは、やはりどこか狂っているのではないだろうか。
重篤な精神障害をもっている人は別だが「一生薬を飲み続けなければならない人はごく一部」とは、今回取材した医師全員に共通した認識だった。
しかし一般的な人が一旦、病院に行ってしまうと、よほど良い医師に当たらない限り、確実に薬漬けにされる。その「よほど良い医師」というのも、日本ではごく一部の存在だ。
うつの体験を雑誌で書いてきた私もまた、松田医師の言うように「さまざまな情報で洗脳され」たうえ、情報戦略に加担していたことになる。雑誌や新聞、テレビはもちろんのこと、一見すると自由で無秩序に見えるウェブの情報も含め、見えない大きな力で誘導されている事実の一端を、今回の一件で気づかされた。すでに大量の服薬によって明晰な考察ができなかったとはいえ、これは非常に恐ろしいことだと思う。