「半分、青い。」は、日本の衰退を教えてくれるドラマだ

時代の「反面教師」として
井戸 まさえ プロフィール

秋風ハウス内で女性漫画家が育たなかった理由

鈴愛の持つ「無垢さ」は風変わりな人気漫画秋風羽織の心を捉えて行く。

本人も気づかない才能を引き揚げるという構造は「エースをねらえ!」の宗方コーチと岡ひろみを想像させる。しかも宗方コーチも秋風羽織も病に侵されているという点でも共通する。

団塊ジュニアのみならず、その前の世代も含めて育ったころには「キャンディ・キャンディ」、「はいからさんが通る」等々、こうしたシンデレラの変形構造ともいえる設定を内在した漫画が多く見られる。

漫画ばかりでなく『赤毛のアン』等、少女たちが読む本も同様、「無垢でお転婆、男勝り」の女性こそ、憧れの王子様に選ばれるのである。現実にはそんなことはまずないのだが。

斎藤美奈子氏が『モダンガール論 女の子には出世の道が二つある』で示したように、女性の出世には「社長になるか、社長夫人になるか」の二択。女性が上を目指すための条件の一つは男に見いだされる必要があるのだ。

「半分、青い。」の原画はくらもちふさこ氏であるが、わざわざ男性の秋風にしたのはなぜなのだろうか。

弟子の連載を取るために頭を下げる秋風。それなりに人気が出て、アシスタントを雇える程となっても彼女たちは秋風のもとから独立しようとは考えない。

後述するが、唯一、秋風を裏切る形でそのもとを去ったのはゲイの「ボクテ」である。

御恩と奉公的関係を続けた後、漫画家としての限界を感じたユーコは結婚し引退することを選択する。

そもそも、世田谷のお嬢様として育ったユーコは、親の離婚等の苦しみから逃れるために漫画の世界に入り込んだ。

本当に欲しかったのはあたたかな家庭だったのかもしれない。しかし、彼女の中で暖かい家庭と仕事を両立することは可能だと言う選択肢はない。

連載に加えて単行本も出てそれなりの収入があるはずと推測できる鈴愛がユーコの結婚式で着たのは初デートの時に着た「カエルのワンピース」である。

彼女の時が「秋風ハウス」に入った18歳から止まったままであることを象徴する場面である。

 

たまたま流れて来た『娚の一生』(偶然にも「秋風先生」=豊川悦司氏主演で映画化されている)等の代表作を持つ漫画家の西炯子氏のTwitterにデビュー当時、編集者から言われたこととして「『法人にしても家族は役員にするな、通帳を渡すな、印税に手を付けず納税に充てる、生活費は原稿でしろ』とだけおしえてくれた」とあり、自営業としてはなるほどと思ったが、秋風羽織が職業人として本来鈴愛たちに教えるべきことの一つはこうしたことだったのではないかと思う。

「女の成長を妨げるような愛し方はするな!」

有名すぎる「エースをねらえ!」での宗方コーチの台詞。

岡ひろみと相思相愛である藤堂氏への言葉だが、秋風氏にもそのぐらいの気迫は持ってほしいものだが、結婚し、漫画家を引退するというユーコに対して、

秋風「だったら、一度、連れておいで。お相手を。18から24まで、ここに住んだんだ。小宮さえよければ、ここから送らせてほしい。ここからお嫁に行けばいい」
ユーコ「先生…」

と言うのが精一杯である。

この場面は最も好評価を得たものでもあるので批判するのは恐縮なのだが。