「ぐるんとびー駒寄」発行のチラシ。「遠くの親せきより近くの他人」の言葉が印象的

シェアハウスでもご近所でもない…「ぐるんとびー」が示す日本の未来

「第三のコミュニティ」をつくる試み

デンマークの思想に学んだ「人生の目的」

「本日、午前9時50分頃、栄2丁目付近で75歳くらいの女性が迷い人になりました。特徴は、身長150cmくらい、やせ型、黒色短髪、服装は紫色の長袖シャツに灰色の長ズボン、紫色の帽子をかぶっています」――。

筆者の住んでいる埼玉県新座市では、このようなアナウンスが防災無線を通じて、平日の昼間や土曜日の夕方など時間を選ばず流れてくる。多い月だと6~7回も放送されるので、決して少ない数ではない。

かつては、いわゆる「ご近所さん」や親戚のおじさん・おばさんなどのネットワークで解決できた日常的な困りごとが山積した結果として、孤独死や児童虐待のような極端な例をはじめ、「社会的孤立」(家族や地域との関係が希薄で、他人との交流がほとんどない状態)の問題がかなり深刻化している。

認知症の高齢者などの行方が分からなくなる「迷い人」のお知らせも、その延長線上にあるといえるだろう。

 

小規模多機能居宅介護事業所「ぐるんとびー駒寄(こまよせ)」(神奈川県藤沢市)を拠点に、新しい地域社会の創出に取り組んでいる、株式会社ぐるんとびー代表取締役で理学療法士の菅原健介さん。

菅原さんは「社会的課題の多くが『分断』によって起こっている」と指摘し、自分たちの手で「よりよく生きることができる」コミュニティを作ることの重要性を訴えている。

事実、「ぐるんとびー駒寄」が入居している団地では、優秀なスタッフたちと若返りが進む自治会の底力に支えられて、魅力的なコミュニティが今まさに立ち上がりつつある。

菅原さんの実践は、とてもシンプルだ。

「うちの小規模多機能ホーム(*1)では、(都市再生機構、UR)の団地の一室という立地から、学校帰りに子どもたちが遊びに来たりしますし、地域の住民やうちのスタッフなど皆を集めて、月に1回飲み会も開催しています。

そもそも『小規模多機能ホーム』は、よりよく生きるためのひとつのツールでしかないんです。究極的には、介護する・されるという役割分担はどうでもよくて、『どのように生きていきたいか』というところから、必要な場所や関係性を見付け出していくことが大切なんです。

そういう意味では、僕らも同じです。要介護の方が僕らの食べるご飯を作ってくれることもありますし、『不安だ』と言って夜におばあちゃんが訪ねて来て、『じゃあ、スタッフで飲みに行きます』って家にお邪魔することもあります。

朝7時に電話がかかってきて、『電気が点かない』って言うので行ってみると、ブレーカーが落ちていただけとか。これはもう介護なのか何なのか、みたいな…(笑)」

菅原さんの考え方の原点には、デンマークでの体験がある。

世界の幸福度ランキングで常にトップ3に入っているデンマークでは、教育プログラムと社会設計が密接に結び付いていることで知られ、「どう生きるべきか、そのためにはどうすべきか」というテーマが、当然のように国民の意識に根付いているという。

「『よりよく生きる』という目的に向かって、〝正しい〟ことを固定化させないで、その時々で導き出した最適解で対処する。そして、それも対話する中で更新し続けていく」

これは、菅原さんが中学・高校時代に留学先のデンマークで学んだ「方法論」であり、「ぐるんとびー駒寄」を巡る活動の中心となっている価値観だ。

事業所名でもあり会社名にもなっている「ぐるんとびー」は、デンマークの牧師・詩人で、「デンマーク近代教育の父」とされるNFS・グルントヴィ(*1)が由来だという。また、「地域と人の想いを〝ぐるん〟と結ぶ」という意味にもかけているそうだ。