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外務省のエースも一瞬で更迭させる「日本社会の極論」の恐ろしさ

強い危惧を覚えてしまう

左右両極の奇妙な論説

評者が現在、いちばん注目している若手の論客は古谷経衡氏(35歳)だ。古谷氏は、

〈私は、左翼からも右翼からも嫌われている。いやはや、実に結構なことだ。

左右の両極端から嫌われているということは、少なくとも彼らの住まう閉鎖的な空間の中にはいない、ということだ。彼らから発せられる極論から遠い、ということだ〉。

確かに極論が好きな人々から古谷氏は煙たがられているが、評者のように同氏の論評のファンも多い。

古谷氏は政治評論だけでなく『「意識高い系」の研究』(文春新書、2017年)のように人間心理の分析についても長けている。

 

古谷氏は左右両極が似たような奇妙な言説を展開している事例として、環太平洋経済パートナーシップ(TPP)の例をあげる。

〈「外部から監視や点検がなく、競争のない閉鎖的な空間」における、「身内だけ」に向けられた極論の典型例としてぜひ取りあげたいのは、「TPPで国が滅ぶ」、いわゆる「TPP亡国論」という奴だ。

TPPといっても、もう忘れてしまった読者もいるかもしれない。環太平洋経済パートナーシップ協定の略である。

これは、元々チリ、ニュージーランド、ブルネイ、シンガポールの四か国の原加盟国が提案して発足した自由経済協定だった。

が、後に日本、アメリカ、オーストラリア、ベトナム、ペルーなどが加わり、文字通り「環太平洋」における巨大な自由貿易圏の誕生が期待された。

日本はTPP会合に遅れて参加し、その参加は第一八回会合(二〇一三年七月)であったが、第二次安倍政権はTPPへの日本の参加は経済効果を生み国益につながるとして、積極的に推進する姿勢を鮮明にした。

不思議なことに、このTPP参加への反対は、日本における政治的な左派と、政治的な右派の両極から沸き起こった。つまりTPP反対は左翼と右翼から同時に、まったく同じように沸き起こったのである〉

左翼は、反米主義の立場から、右翼は反米主義に新自由主義的経済転換を急速に遂げ、グローバル化に積極的な韓国に対する蔑視と反感が加わっている。

さらに食料に対する排外主義が加わっている。TPP亡国論がグロテスクな歪んだナショナリズムであることを古谷氏はわかりやすく説明する。

政治であれ、学問であれ、宗教であれ、極論が生まれる背景には外部の目が入りにくい閉鎖的な空間があることを古谷氏は指摘する。

〈「外部から監視や点検がなく、競争のない閉鎖的な空間」には常に異論排除の理屈と極論が渦巻いている。

最も恐ろしいのは、自分が知らず知らずのうちにその閉鎖空間に取り込まれ、気が付けばその一員としてふるまってしまう状況である。

私も一時期、「TPPで国が滅ぶ」とか「女系天皇は反日策動」などという極論に、つい「うんうん」と無批判にうなずきかけた時期があった。

私が保守・右派に入りたての頃、初めは「そんな馬鹿な」とか「さすがに極端だ」と内心思っていても、それを口に出せず、出すことによるネガティブな反応ばかりを気にして、「いいやいいや」で無批判にうなずいてしまっていると、恐ろしいことに次第に自己暗示状態にかかってしまい、いつの間にか極論に彩られた閉鎖空間の中に取り込まれてしまっていた。

この、「最初はおかしいと思っていた」という感覚こそが最も重要だ。第一印象で「この団体(組織)はちょっとおかしい」と思ったら、大体において実際におかしいと相場が決まっている。この動物的嗅覚というか、直感は正しいのだ〉